コロナウイルス:ヒト遠位肺オルガノイドにおける前駆細胞の特定とSARS-CoV-2感染
Nature 588, 7839 doi: 10.1038/s41586-020-3014-1
遠位肺には、終末細気管支やガス交換を促進する肺胞が含まれている。ヒト遠位肺のin vitro三次元培養系は、間質性肺疾患、がん、そして重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)によって引き起こされる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)肺炎などの病態の研究を強力に推し進めると考えられる。今回我々は、単一の成人ヒトII型肺胞上皮細胞(AT2)あるいはKRT5+基底細胞に由来するオルガノイドとして、遠位肺前駆細胞を培養するためのフィーダーフリー既知組成培地による長期培養系の開発について報告する。AT2オルガノイドはAT1細胞へ分化することができ、基底細胞オルガノイドは、分化したクラブ細胞や繊毛細胞で裏打ちされた内腔を形成した。基底細胞オルガノイドのKRT5+細胞の単一細胞解析によって、ITGA6+ITGB4+の有糸分裂する独特な細胞集団が明らかになり、この細胞の子孫細胞は、さらにKRT5+基底細胞のおよそ10%を占めるTNFRSF12Ahiの亜集団へと分離された。この亜集団は、終末細気管支内にクラスターを形成し、高いクローン増殖性のオルガノイド成長活性を示した。我々は、露出した外側表面にACE2を提示する、外側が頂端面となる極性を持つ遠位肺オルガノイドを作製した。AT2や基底細胞由来のこのようなオルガノイド培養ではSARS-CoV-2感染が促進され、クラブ細胞が標的集団であることが明らかになった。このフィーダーフリーのヒト遠位肺オルガノイド長期培養系を単一細胞解析と組み合わせることで、基底細胞間の機能的不均一性が明らかになり、COVID-19関連肺炎などのヒト遠位肺感染の手軽なin vitroオルガノイドモデルが確立された。