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分子生物学:ヒトミトコンドリアDNAの転写の小分子阻害剤
Nature 588, 7839 doi: 10.1038/s41586-020-03048-z
加齢や、ヒトのさまざまな病気(例えば、先天性代謝異常や神経変性、がん)に伴って、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の発現には変化が起こる。今回我々は、ヒトミトコンドリアRNAポリメラーゼ(POLRMT)を標的とする、画期的な(first-in-class)ミトコンドリアDNA転写特異的阻害剤(IMT)を報告する。POLRMTは、酸化的リン酸化(OXPHOS)系の新生に不可欠な酵素である。これらのIMTは、再構築した組換え系でmtDNAの転写を効率よく阻害し、細胞系列でmtDNAの発現とOXPHOSの用量依存的阻害を引き起こした。細胞側の標的を確かめるために、変異を誘発した細胞のエキソーム塩基配列を解読したところ、POLRMT中にIMTに対する抵抗性の原因となる一群のアミノ酸置換が突き止められた。また、IMTの1つに結合したPOLRMTのクライオ電子顕微鏡構造が得られ、これによりPOLRMTの裂け目状の活性中心の近くにあるアロステリック結合部位が明らかになった。これまでに、がん細胞の増殖と治療抵抗性を示すがん幹細胞の持続がOXPHOSに依存することが報告されているので、我々はIMTが抗腫瘍効果を持つかどうかを調べた。マウスでは、IMTの1つの4週間にわたる経口投与に対して良好な忍容性が見られ、正常組織ではOXPHOSの機能不全は起こらず、毒性も見られなかったが、ヒトがん細胞の異種移植片では強力な抗腫瘍応答が誘発された。これらをまとめると、IMTは生理的また病的状態でのmtDNA発現の役割を研究するための強力かつ特異的な化学生物学的手段になると考えられる。

