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コロナウイルス:SARS-CoV-2が膜融合するためのスパイクタンパク質の受容体結合とプライミング

Nature 588, 7837 doi: 10.1038/s41586-020-2772-0

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染は、ウイルスが細胞表面受容体であるアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)へ結合することによって開始され、続いてウイルスと細胞膜の融合が起こり、ウイルスゲノムが細胞内へと放出される。受容体結合活性と膜融合活性は共に、ウイルスのスパイク糖タンパク質を介して起こる。他のクラスI膜融合タンパク質と同様に、このスパイクタンパク質は(SARS-CoV-2の場合はフリンにより)翻訳後に切断されてS1とS2の構成要素に分かれ、これらは切断後も結合した状態を維持する。受容体結合後の融合の活性化には、第二のタンパク質切断部位(S2′)の露出が関わっており、その切断が融合ペプチドの遊離に必要だと考えられている。今回我々は、クライオ電子顕微鏡を用いて、フリン切断型SARS-CoV-2スパイクタンパク質とACE2の結合について解析した。我々は観察されたスパイクタンパク質とACE2からなるさまざまな複合体を、非結合型の閉じたスパイク三量体、ACE2結合型の完全に開いた三量体、ACE2結合型の解離した単量体S1など、10種類の異なる分子種に分類した。これらの10種類の構造は、スパイク三量体が不安定化して、個々のS1構成要素が徐々に開いて外に広がっていくというACE2の結合事象を説明している。この開く過程では、S1の接触が減少し、三量体のS2コアが露出することで、スパイクタンパク質が融合の活性化やACE2結合型S1単量体の解離に対してプライミングされる。得られた構造からはまた、ACE2結合後にS2との相互作用を阻害する、S1サブドメインの再折りたたみが明らかになった。これにはAsp614が関わっていて、S2′に近接したS2の構造の不安定化につながる。

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