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コロナウイルス:健康なドナーとCOVID-19患者におけるSARS-CoV-2反応性T細胞

Nature 587, 7833 doi: 10.1038/s41586-020-2598-9

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、急速に広がる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)を引き起こした。COVID-19の臨床症状は、無症状感染から呼吸不全までさまざまである。しかし、このような多様な転帰を決定する機構はまだ明らかにされていない。今回我々は、COVID-19患者とSARS-CoV-2に曝露されていない健康なドナーの末梢血において、SARS-CoV-2のスパイク糖タンパク質に対して反応性を示すCD4+ T細胞を調べた。その結果、COVID-19患者の83%だけでなく、健康なドナーの35%でもスパイク反応性のCD4+ T細胞が検出された。健康なドナーのスパイク反応性CD4+ T細胞は、主にスパイクタンパク質のC末端のエピトープに対して活性であった。このC末端エピトープは、N末端のエピトープと比較して、ヒトで流行している従来型のコロナウイルスの糖タンパク質に対してより高い相同性を示す。SARS-CoV-2に罹患したことのない健康なドナーから作製したスパイクタンパク質反応性T細胞株は、従来型のヒトコロナウイルスの229EやOC43のスパイクタンパク質のC末端領域に対してだけでなく、SARS-CoV-2のC末端領域に対しても同様に反応した。これらの結果は、スパイクタンパク質交差反応性のT細胞が存在することを示しており、これらはおそらく過去に従来型コロナウイルスに遭遇した際に生じたものであると考えられる。既存のSARS-CoV-2交差反応性T細胞が臨床転帰に及ぼす影響については、より大きなコホートで明らかにする必要がある。しかし、一般集団のかなりの割合にSARS-CoV-2スパイクタンパク質交差反応性T細胞が存在することは、現在のパンデミックの動態に影響すると考えられ、COVID-19ワクチンを評価する今後の臨床試験の設計や解析に重要な意味を持つ。

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