神経科学:解離における深部後内側皮質の律動
Nature 586, 7827 doi: 10.1038/s41586-020-2731-9
画像化法の進歩で、現在は哺乳類脳全体の細胞タイプ特異的な神経活動記録が可能になっており、これにより、脳全体の動的な活動パターンがどのように複雑な行動状態を生じさせるのかについての探索も可能になると考えられる。解離とは、体験の統合性が破綻し、刺激の感知と刺激による情動応答が分離するなどの認知現象が繰り返し起こる行動変容状態をいう。解離は、心的外傷、てんかん、解離性薬物使用の結果として起こり得るが、基本的および臨床的に非常に重要であるにもかかわらず、この状態の神経生理的基盤は分かっていない。今回我々は、マウスで、ケタミンまたはフェンシクリジンの厳密に用量調整した投与によって、解離に似た状態を作り出した。神経活動の大規模な画像化を行ったところ、これらの解離性薬剤が、脳梁膨大後後部皮質の第5層ニューロンで1〜3 Hzの周期的変動を誘起することが分かった。高密度プローブを4個同時に配置した電気生理記録では、こうした脳梁膨大後部皮質の律動が、解剖学的に結合している視床回路部分の活動とは共役しているが、他の多くの脳領域の活動とは共役しておらず、特に前頭部に投射する視床核群とは逆相関が認められることが示された。こうした律動の因果的意義を調べるため、脳梁膨大後部皮質の第5層ニューロンを光遺伝学的手法で律動的に活性化したところ、解離に似た行動効果が再現された。ケタミンの全身投与がこうした律動を誘起して解離様の行動効果をもたらすには、脳梁膨大後部に局所的な過分極活性化環状ヌクレオチド依存性カリウムチャネル1(HCN1)ペースメーカーが必要であることが分かった。1人の焦点てんかん患者で、脳全体の頭蓋内立体脳波同時記録を行ったところ、相同な深部後内側皮質で同様に局所的な律動が認められ、この律動は発作前の自己申告による解離の発生と時間的に相関しており、また、この領域を局所的に短く電気刺激すると解離体験が誘発された。これらの結果は、解離状態の根底にある保存された深部後内側皮質の律動の、分子的、細胞学的、生理学的な特性を明らかにするものである。

