気候科学:南極氷床のヒステリシス
Nature 585, 7826 doi: 10.1038/s41586-020-2727-5
地球の淡水資源の半分以上が南極氷床によって保持されているため、将来の温暖化条件下では、南極氷床が全球の海水準上昇の飛び抜けて大きな起源となる可能性がある。つまり、南極氷床の長期的な安定性によって、沿岸都市や文化遺産の運命が決まる。氷、大気、海洋、固体地球の間のフィードバックによって、温度変化に対する南極氷床の応答に非線形性が生じる可能性がある。大きさの異なる地球温暖化に対する南極氷床の安定性に関する包括的な分析は、これまで行われていなかった。本論文では、南極氷床には多数の温度しきい値(それを超えると氷の損失を元に戻せない温度)があることを示す。我々は、並列氷床モデル(PISM)を用いて、産業革命以前より約2°C高い地球温暖化レベルでは、西南極の氷床が、海洋氷床の不安定さに起因して長期的な部分的崩壊に拘束されることを見いだした。産業革命以前のレベルから6〜9°Cの温暖化では、主に海水準上昇のフィードバックに起因して現在の氷体積の70%以上の損失が生じる。さらに産業革命以前のレベルから10°C以上温暖化すると、南極大陸には氷がほぼなくなる。氷床の気温感度は、産業革命前のレベルから2°Cまでの温暖化では、海水準換算で1°C当たり1.3 mで、2〜6°Cの温暖化では1°C当たり2.4 mに倍増し、6〜9°Cの温暖化では1°C当たり約10 mまで増大する。これらそれぞれのしきい値によって、ヒステリシス挙動が生じる。つまり、現在観測される氷床の構造は、気温が現在のレベルに戻っても元には戻らない。具体的には、西南極氷床は、気温が産業革命以前のレベルより少なくとも1°C低くなるまで、再成長して現在の規模になることはない。今回の結果は、パリ協定が達成されなければ、海水準に対する南極大陸の長期的な寄与が劇的に増大し、他の全ての起源からの寄与を超えることを示している。

