コロナウイルス:SARS-CoV-2の抗体依存性増強の可能性についての展望
Nature 584, 7821 doi: 10.1038/s41586-020-2538-8
疾患の抗体依存性増強(ADE)はワクチンや抗体療法を開発する際の一般的な懸念事項であり、それは、全てのウイルスに対して働く抗体防御の根底にある機構が、理論的には、感染を増幅する可能性または有害な免疫病態を引き起こす可能性を持つためである。こうした可能性は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)によって引き起こされる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)での現在の重大な局面においては、特に注意深く検討する必要がある。本論文で我々は、疾患のADEリスクに関係する観察結果を概説し、それらがSARS-CoV-2感染にどのような意味を持ち得るか再検討する。現在のところ、抗体やT細胞、宿主の内因性応答のいずれの測定によっても、任意の全ての重症ウイルス感染を免疫増強疾患と区別できるような臨床所見、免疫アッセイ、バイオマーカーは存在しない。in vitro系でも動物モデルでも疾患のADEリスクは予測できず、これは一部には、防御の抗体媒介機構と有害となり得る抗体媒介機構が同一であること、そして、動物モデルの設計が、宿主の抗ウイルス応答がヒトでどのようにして有害になるかについての理解に依存していることによる。こうした知識の欠如は次の2つのことを意味する。1つは、SARS-CoV-2に対する防御免疫の臨床的相関を定義付けるための、包括的な研究が緊急に必要であること。もう1つは、どのウイルスが原因であるかに関係なく、ワクチン接種あるいは抗体治療の後では疾患のADEを確実に予測できないため、COVID-19に対する免疫介入が進む現状では、ヒトでの安全性について慎重な評価に依存する必要があるということである。