量子物理学:エンタングルメントを用いた1120 kmにわたる安全な量子暗号
Nature 582, 7813 doi: 10.1038/s41586-020-2401-y
量子鍵配送(QKD)は、遠く離れたユーザー間で秘密鍵を共有する理論的に安全な方法の1つである。実験室では、最長404 kmのコイル状の光ファイバーでこれが実証されている。実験室外では、人工衛星から最長1200 km離れた地上局への2点間のQKDが実現されている。しかし、現実世界でQKDを用いた暗号が対象とするのは物理的に離れた地上のユーザー同士であり、これまでその最大距離は約100 kmであった。信頼できる中継装置を使えば、こうした距離を典型的な大都市圏内から都市間、さらには大陸間の距離へと拡大できる。しかし、中継装置には安全性のリスクがあり、このリスクは、ソースに依存しない固有の安全性を持つ、エンタングルメントを用いたQKDを使うことによって回避できる。量子リピーターを使うことで長距離のエンタングルメント配送を実現できるが、関連技術は実際に実装するには未熟である。人工衛星を用いたQKDが、安全性を損なうことなく量子通信の距離を拡大する代替法であることは明白だが、衛星を用いたエンタングルメント配送の効率はこれまで、QKDをサポートできるほど高くなかった。今回我々は、信頼できる中継装置を必要としない、0.12ビット毎秒という有限の秘密鍵速度での、1120 km離れた2つの地上局間におけるエンタングルメントを用いたQKDを実証する。エンタングル光子対は、人工衛星「墨子」から、2本の双方向ダウンリンクを介して中国のデリンハと南山にある2つの地上観測所へと配送された。リンクの効率は、高効率の望遠鏡と追跡光学系を開発することによって大きく改善された。我々の地上受信器は、公平なサンプリングと既知全てのサイドチャネルに対する耐性を確保するよう入念に設計されているため、生成された鍵は現実的なデバイスで安全である。今回の方法によって、地上での安全な量子通信距離が10倍に拡大されただけでなく、QKDの実用的な安全性がこれまでにないレベルまで高められた。

