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生物工学:Cas13を用いた大規模マルチプレックス解析による核酸検出

Nature 582, 7811 doi: 10.1038/s41586-020-2279-8

世界的に伝播している病原体の大多数は検出されておらず、これによって患者のケアが損なわれ、アウトブレイク(集団発生)に対する準備や対応が妨げられている。日常的なサーベイランスや診断への包括的な応用を可能にするには、多くの試料の検査に対応できる一方で、多くの病原体に対する検査を同時に行える検出技術が必要である。今回我々は、スケーラブルなマルチプレックス解析による病原体検出のためのプラットフォームであるCARMEN(Combinatorial Arrayed Reactions for Multiplexed Evaluation of Nucleic acids)を開発した。このCARMENプラットフォームでは、CRISPRベースの核酸検出試薬を含むナノリットルの液滴がマイクロウェルアレイ内で自己組織化して、増幅された試料の液滴と対になり、これによって複製液滴中で、各試料が各CRISPR RNA(crRNA)に対して検査される。CARMENとCas13検出の組み合わせ(CARMEN–Cas13)により、単一のアレイで4500以上のcrRNA–標的ペアに対するロバストな検査が可能になる。我々は、CARMEN–Cas13を用いることで、報告されたゲノム塩基配列が少なくとも10件あるヒト関連ウイルス169種類全てを同時に識別するマルチプレックス解析による検出法を開発し、これに、2020年のCOVID-19パンデミック原因ウイルスを検出するcrRNAを急遽追加で組み込んだ。さらにCARMEN–Cas13により、A型インフルエンザ株の包括的なサブタイピングや、数十のHIV薬抵抗性変異の多重特定が可能になった。小型化によって検査当たりの試薬コストを300分の1以下に削減することができるため、CARMENの固有のマルチプレックス検出能およびスループット能によって、スケールアップが現実的なものとなる。スケーラブルで高度なマルチプレックス解析を用いたCRISPRベースの核酸検出は、診断とサーベイランスの取り組みを、優先順位の高い試料を標的とした検査から大規模な試料セットの包括的な検査へと移行させ、患者と公衆衛生に大きな恩恵をもたらす。

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