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原子物理学:パイ中間子ヘリウム原子のレーザー分光研究

Nature 581, 7806 doi: 10.1038/s41586-020-2240-x

荷電パイ中間子は、最も軽くて長寿命な中間子である。普通の原子の軌道電子を負荷電の中間子に置き換えると、中間子原子が形成される。こうした原子のレーザー分光測定によって、中間子の質量などの性質を高精度で決定できると考えられ、中間子に作用するような、特異な性質を持つ仮説上の力に制限を課し得る可能性もある(反陽子を用いた他の実験でも同様の研究が行われている)。特にπ中間子質量の決定は、反ミューニュートリノ質量を直接的に実験測定で制限する上で役立つ可能性がある。しかし、中間子原子は少量しか合成できず、中間子が原子核に吸収されてしまうため、一般にその寿命は1 ps以下と短い。そのため、中間子原子のレーザー励起はこれまで実現されていなかった。準安定パイ中間子ヘリウム(π4He+)は、ヘリウム4原子核、電子、π中間子で構成された仮説上の三体系の原子である。ここで、π中間子は、主量子数がn ≈ 16、軌道角運動量量子数がln−1と共に大きなリュードベリ状態を占有している。π4He+原子の寿命はナノ秒程度と異常に長いことが予言されているため、レーザー分光測定を行える可能性がある。また、スピン量子数0のπ中間子と4He原子核の間に超微細相互作用が働かないため、この原子は特異な構造を持っている。今回我々は、超流体ヘリウム標的中でπ4He+原子を合成し、原子内のπ中間子が占有する軌道間の遷移のうち、(n, l) = (17, 16) → (17, 15)という、共鳴周波数が18万3760 GHzであるような近赤外領域の遷移を励起した。こうしてレーザー光によって誘導される一連の電磁カスケード過程は、やがて原子核によるπ中間子の吸収と核分裂を引き起こした。この際に放出される中性子、陽子、重陽子などの破砕片を、レーザー共鳴分光の信号として捕捉することによって、π4He+原子の実在を確認した。今回の測定によって、量子光学の実験手法を用いて中間子の研究を行うことが可能になった。

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