生化学:糖新生酵素PCK1は脂質の生合成のためにINSIG1/2をリン酸化する
Nature 580, 7804 doi: 10.1038/s41586-020-2183-2
がん細胞は増殖のために脂質の生合成を増加させ、この過程ではステロール調節エレメント結合タンパク質(SREBP)の活性化が中心的な役割を果たしている。SREBPは小胞体において、INSIGタンパク質、SCAP(SREBP cleavage-activating protein)およびステロールで構成された複合体によって阻害されている。SCAP–SREBP複合体の小胞体からの解離とSREBPの活性化には、ステロールレベルによるINSIGタンパク質とSCAPの間の相互作用の調節が極めて重要である。しかし、このタンパク質相互作用がステロール量以外の機序によって調節されているかどうか、特に、発がん性シグナル伝達が何らかの役割を果たしているのかは不明であった。今回我々は、ヒト肝細胞がん(HCC)細胞において、活性化されたAKTが、糖新生の律速酵素である細胞質のホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ1(PCK1)のSer90をリン酸化することを明らかにする。リン酸化されたPCK1は小胞体へと移動し、そこでGTPをリン酸基供与体として用いて、INSIG1のSer207とINSIG2のSer151をリン酸化する。このリン酸化はマウスで、INSIG1とINSIG2へのステロールの結合を低下させ、INSIGタンパク質とSCAPの間の相互作用を破壊する。その結果、SCAP–SREBP複合体のゴルジ装置への移動、SREBPタンパク質(SREBP1あるいはSREBP2)の活性化、下流の脂質生合成関連遺伝子群の転写、腫瘍細胞の増殖、腫瘍発生が起こる。さらに、HCC患者由来の試料におけるPCK1のSer90、INSIG1のSer207、INSIG2のSer151のリン酸化は、SREBP1の核への蓄積と正の相関を示しただけでなく、HCCの予後の悪さとも関連していた。これらの知見によって、SREBPの活性化、脂質の生合成、HCCの発生におけるPCK1のプロテインキナーゼ活性の重要性が明確になった。

