進化学:ホモ・アンテセッサーの歯のプロテオーム
Nature 580, 7802 doi: 10.1038/s41586-020-2153-8
ホモ・アンテセッサー(Homo antecessor)に代表される前期更新世のユーラシアのヒト族と、ホモ・サピエンス(Homo sapiens)など後の中期更新世の化石記録が見つかっているヒト族との間の系統発生学的類縁関係については激しく議論されている。最古級の遺骸については、古代DNAが分解されているためにこうした類縁関係の分子的研究が進んでいない。しかし最近の研究で、古代タンパク質の分析によってこの課題に取り組めることが実証された。本論文では、更新世のヒト族の形態、分散、分岐のモデルにおいて中心的役割を担う2つの重要な化石群である、アタプエルカ(スペイン)のホモ・アンテセッサーとドマニシ(ジョージア)のホモ・エレクトス(Homo erectus)について、歯のエナメル質のプロテオームを報告する。解析の結果、ホモ・アンテセッサーが、その後の中期および後期更新世のヒト族である現生人類やネアンデルタール人、デニソワ人などと近縁な姉妹系統であることを示す証拠が得られた。この位置付けは、ホモ・アンテセッサーの現代的な顔(すなわち現生人類に類似した顔)がヒト属(Homo)の系統樹においてかなり深い部分に起源を持つ可能性、そしてネアンデルタール人の頭蓋の形態が派生的な形状であることを示唆している。AMELY特異的なペプチド配列が回収されたことから、今回分析されたアタプエルカのホモ・アンテセッサーの大臼歯の破片は男性個体のものであると結論付けられた。さらに、これらのホモ・アンテセッサーとホモ・エレクトスの化石には、歯の形成中にin vivoで生じたエナメル質プロテオームのリン酸化やタンパク質分解消化を示す証拠も保存されていた。今回の結果は、ホモ・アンテセッサーと他のヒト族群との間の進化的類縁関係についての重要な知見をもたらすとともに、ヒト属全体にわたるヒト族の生物学的性質を、エナメル質プロテオームを用いて調べるという今後の研究に道を開くものである。

