エピジェネティクス:ヒストンのラクチル化による遺伝子発現の代謝調節
Nature 574, 7779 doi: 10.1038/s41586-019-1678-1
もともとはがん細胞で乳酸産生が増加する現象を指していたワールブルク効果は、血管新生や低酸素状態、マクロファージの極性化、T細胞活性化といった多様な細胞過程に関連付けられている。またこの現象は、腫瘍や敗血症、自己免疫疾患などのいくつかの病気にも密接に関わっている。乳酸は、エネルギー源として、また代謝の副産物として広く知られていて、腫瘍細胞ではピルビン酸から作られる。しかし、乳酸が生理的に、また疾患において果たしている代謝以外の機能については知られていない。今回我々は、ヒストンのリシン残基の乳酸によるラクチル化が、エピジェネティック修飾の1つとして働いて、クロマチンからの遺伝子の転写を直接刺激することを明らかにした。ヒト細胞、マウス細胞のコアヒストンには、ラクチル化部位が28か所あることが分かった。低酸素状態や細菌への曝露は、解糖による乳酸産生を誘導し、これが前駆体となってヒストンのラクチル化を促進する。細菌に曝露したM1マクロファージをモデル系として使ったところ、ヒストンのラクチル化が、アセチル化とは異なる時間的動態を持つことが明らかになった。M1マクロファージの極性化の遅い段階で、ヒストンラクチル化の増加によって、Arg1などの創傷治癒に関わる恒常性関連遺伝子が誘導されることが分かった。総合するとこれらの結果は、細菌に曝露されたM1マクロファージ内部では内在性の「乳酸時計」が働いて、恒常性を促進する遺伝子の発現が誘発されることを示唆している。従って、ヒストンのラクチル化の研究は、感染やがんといった多様な病態生理学条件下で乳酸が果たす機能や役割についての解明を進める機会をもたらすだろう。

