コンピューティング:確率的磁気トンネル接合を用いた因数分解
Nature 573, 7774 doi: 10.1038/s41586-019-1557-9
従来型のコンピューターは、情報を0と1の2進コードで表すビット列を使って決定論的に動作する。従来型のコンピューターは高度な機器へと進化している反面、推論、可逆論理演算、サンプリング、最適化など、効率よく処理できない多くのクラスの問題があり、これに代わるコンピューティング方式が大きな関心を呼んでいる。量子ビットを使って0と1の重ね合わせを利用する量子コンピューティングは、これらのタスクを効率よく実行できると予想される。しかし、デコヒーレンスがあり、現在は極低温でしか動作せず、実装できる多体相互作用が限られているなど、多くの難題が生じている。確率論的コンピューティングはもう1つの非従来型コンピューティング方式であり、量子コンピューティングと似た概念を共有するが、上記のような難題の制限は受けない。ここで重要な役割を果たすのは、確率ビット、すなわちpビットでる。これは、0と1の間を時間とともにゆらぐロバストな古典的要素で、ニューラルネットワークに着想を得た原理を使って、システム内の他のpビットと相互作用する。今回我々は、スピントロニクス技術を使った確率論的コンピューティングの概念実証実験を行い、因数分解を実証する。因数分解は、断熱方式やゲート方式の量子コンピューティングによって取り組まれており、最適化問題の代表的な例である。確率的挙動を示すナノスケールの磁気トンネル接合を、すぐに市場に投入可能な磁気抵抗ランダムアクセスメモリーの技術を改良して開発し、それを用いて室温で動作する三端子pビットを構築した。これらのpビットを電気的に接続して、機能性の非同期式ネットワークを作製し、これに、三体と四体の相互作用を実装する修正版断熱量子コンピューティングアルゴリズムを適用した。この初歩的な非同期式確率論的コンピューターで、8個の相互作用したpビットを使って最大945までの整数の因数分解が実証され、その結果は理論予測とよく一致した。従って今回の結果は、最適化やサンプリングなどの難しい問題を扱う潜在的にスケーラブルなハードウエアの実現への道を与えるものである。

