ウイルス学:A型インフルエンザウイルスのRNAポリメラーゼの構造からウイルスゲノムの複製についての手掛かりが得られる
Nature 573, 7773 doi: 10.1038/s41586-019-1530-7
A型インフルエンザウイルスは季節性のエピデミック(地域的流行)の原因であり、新規の人獣共通A型インフルエンザウイルスのヒトへの伝播によってパンデミック(世界的流行)が起こる可能性がある。A型インフルエンザウイルスは、分節に分かれた一本鎖マイナス鎖RNAゲノムを持ち、PB1、PB2、PAのサブユニットから構成されるウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼ(FluPolA)によって転写・複製される。コウモリA型インフルエンザウイルスのFluPolAの高分解能での結晶構造がこれまでに報告されているが、ヒトや鳥類のFluPolAの完全な構造は得られていない。その上、ゲノムであるウイルスRNA(vRNA)の複製は、相補的RNA(cRNA)の複製中間体を介して進行し、このポリメラーゼのオリゴマー化を必要とするが、その分子機構はほとんど解明されていない。今回我々は、結晶学とクライオ(極低温)電子顕微鏡法を用いて、ヒトA/NT/60/1968(H3N2)型インフルエンザウイルスおよび鳥A/duck/Fujian/01/2002(H5N1)型インフルエンザウイルスの、cRNAあるいはvRNAの鋳型の存在下または非存在下でのFluPolAの構造を3.0~4.3 Åの分解能で決定した。溶液中では、FluPolAは、PAサブユニットのC末端ドメイン、PB1の親指に似た形のthumbサブドメイン、PB2のN1サブドメインを介してヘテロ三量体が二量体化している。cRNA鋳型に結合した単量体FluPolAのクライオ電子顕微鏡構造から、二量体界面での3′cRNAの結合部位が明らかになった。細胞を用いたアッセイとin vitroアッセイを組み合わせることで、FluPolA二量体の界面はウイルスゲノム複製の際のvRNA合成に必要であることが分かった。また、FluPolAの二量体化を阻止するナノボディ(単一ドメイン抗体)がvRNAの合成を阻害し、その結果、感染細胞でのウイルス複製を阻害することも分かった。我々の研究は、医学的に意味のあるFluPolAの高分解能構造に加え、ウイルスRNAゲノムの複製機構についての手掛かりも示している。さらに、我々の研究から、抗ウイルス薬開発の標的となる可能性のある、FluPolA部位が特定された。

