腫瘍生物学:細胞間の相互作用はNF2–YAPシグナル伝達を介してがん細胞のフェロトーシスを決定付ける
Nature 572, 7769 doi: 10.1038/s41586-019-1426-6
フェロトーシスは、細胞の代謝と鉄に依存する脂質過酸化によって引き起こされる細胞死過程の1つで、虚血性臓器障害やがんなどの疾患に関係しているとされる。酵素のグルタチオンペルオキシダーゼ4(GPX4)はフェロトーシスの重要な調節因子であり、細胞代謝の副産物である脂質過酸化物を中和することで細胞を守っている。GPX4を直接阻害したり、GPX4の基質であるグルタチオンやグルタチオンの構成成分(システインなど)を欠乏させて間接的に阻害したりすると、フェロトーシスが引き起こされることがある。フェロトーシスは、p53、BAP1、フマラーゼなどの複数の腫瘍抑制因子の抗腫瘍機能にも関わっている。直観的には理解しにくいが、間葉系のがん細胞(転移しやすく、さまざまな治療に抵抗性を示すことが多い)はフェロトーシスに対する感受性が非常に高い。今回我々は、フェロトーシスが、カドヘリンを介した細胞間相互作用によって細胞非自律的に調節可能であることを明らかにする。上皮細胞では、E-カドヘリンに仲介されるこのような細胞間相互作用が、細胞内NF2(別名マーリン)とHippoシグナル伝達経路の活性化により、フェロトーシスを抑制する。このシグナル伝達軸を拮抗阻害すると、発がん性の転写コアクチベーターYAPが、ACSL4やTFRCなどの複数のフェロトーシス調節因子の上方調節によりフェロトーシスを促進できるようになる。この知見は、間葉系の特性、すなわち転移性を持つがん細胞が非常にフェロトーシスを起こしやすいという観察結果を機序から説明するための手掛かりとなる。一部の非上皮系細胞でも、同じような機序がフェロトーシスを調節している。さらに、中皮腫でしばしば見られる腫瘍抑制因子NF2の遺伝的不活性化が、がん細胞のフェロトーシス感受性を高めることが、悪性中皮腫の同所性マウスモデルで明らかになった。これらの結果は、細胞間相互作用と細胞内NF2–YAPシグナル伝達が、フェロトーシスによる細胞死を決定付ける役割を果たしていることを実証している。この研究はまた、今後出てくるであろうフェロトーシス誘発治療に対するがん細胞の応答性を、NF2–YAPシグナル伝達の悪性変異から予測できる可能性を示唆している。

