Letter
工学:テトラセンにおける一重項励起子分裂によるシリコンの増感
Nature 571, 7763 doi: 10.1038/s41586-019-1339-4
シリコンは、現代の太陽電池技術を支配している。しかし、シリコンは他の半導体と同様に、光子を吸収する際、そのバンドギャップを超えるエネルギーを無駄にしている。こうした熱化による損失を減らし、光に対するより高い感度を実現することは、一重項スピン特性を持つより高いエネルギーの光励起状態(一重項励起子)から三重項スピン特性を持つ励起状態(三重項励起子)を2個生成する一重項励起子分裂を使い、シリコン太陽電池を増感させることによって可能である。分子半導体であるテトラセンにおける一重項励起子分裂は、シリコンのバンドギャップとエネルギーが一致する三重項励起子を生成することが知られている。三重項励起子がシリコンへ移動すると、新たな電子–正孔対が形成されて、単一接合限界の29%から35%程度まで電池の効率が高まる見込みがある。今回我々は、シリコン太陽電池表面のハフニウム酸窒化物保護層の厚さをわずか8 Åまで薄くし、電場効果による不動態化を用いて、テトラセンで形成される三重項励起子の効率の良いエネルギー移動を可能にした。テトラセンでの分裂とシリコンへのエネルギー移動を組み合わせた最大収率は約133%であり、シリコン太陽電池の効率を高め、生じるエネルギーコストを削減するための一重項励起子分裂の可能性が立証された。

