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発生生物学:哺乳類の胚サイズと細胞運命の水圧による制御
Nature 571, 7763 doi: 10.1038/s41586-019-1309-x
組織の発生と恒常性維持には、サイズの制御が必須である。このような過程での細胞増殖の役割は幅広く研究されてきたが、胚のサイズを制御する機構、またこのような機構が細胞運命にどう影響するかは、まだ分かっていない。今回我々は、マウスの胚盤胞をモデルとして用いて、液体で満たされた内腔が胚サイズの制御と細胞運命の指定に果たす重要な役割を明らかにする。胚盤胞の発生の間に内腔の圧力は2倍に増加し、その結果として細胞皮層の張力と内腔の内側を覆う栄養外胚葉の硬さも同時に増すことが分かった。皮層の張力の上昇は、ビンキュリンのメカノセンシングと密着結合の機能の成熟につながり、これによって正のフィードバックループが確立されて内腔の拡大が起こる。皮層張力が臨界閾値に達すると、有糸分裂が開始される間に細胞間接着を維持できなくなり、栄養外胚葉の破断と胚盤胞の崩壊が引き起こされる。水圧に依存する振動という単純な理論によって、観察された胚サイズ振動動態を再現でき、組織体積に伴う胚サイズの規模の増減が予測される。この理論からはさらに、破壊された密着結合もしくは組織の硬度増大がより小さな胚サイズにつながると予測され、これは生物物理学的、発生学的、薬理学的、遺伝学的な攪乱を加えることで確認された。内腔の圧力とサイズの変化は栄養外胚葉の細胞分裂パターンに影響する場合があり、従って細胞の配置と細胞運命に影響を及ぼす。今回の研究によって、内腔の圧力と組織の力学的性質が胚サイズを組織規模で制御する仕組みが明らかになった。この仕組みは、細胞規模では細胞が占める位置と細胞運命に連動している。

