物性物理学:ファンデルワールス近接効果による二層グラフェンにおけるスピン–軌道駆動バンド反転
Nature 571, 7763 doi: 10.1038/s41586-019-1304-2
スピン–軌道結合(SOC)は、時間反転不変なトポロジカル物質相を実現するカギとなる。KaneとMeleによって、SOCが量子スピンホール絶縁体を安定化することが予測されたが、単層グラフェンの固有SOCは弱いため、この材料ではそうした効果は実験的に観測できていなかった。今回我々は、非常に清浄な二層グラフェンにおいてKane–Mele SOCを操作するために、半導体遷移金属ジカルコゲニドとのファンデルワールス接触によって得られる層選択的近接効果を利用した。高分解能キャパシタンス測定を用いてバルクの電子圧縮率を調べることで、SOCが電荷中性において別個の非圧縮性ギャップ相の形成につながることが見いだされた。今回の実験データは、この新しい相がSOCによって駆動されるバンド反転に起因して生じるとする単純な理論モデルと定量的に一致している。単層グラフェンにおけるKane–Mele SOCとは異なり、この反転相は、結晶対称性によってバルクギャップが閉じられなければならない、電場で調整される相転移によって従来のバンド絶縁体から区別されるにもかかわらず、時間反転不変なトポロジカル絶縁体にはならないと予想される。電気輸送測定を行ったところ、反転相の伝導度がおよそe2/h(eは電子の電荷、hはプランク定数)で、これは非常に小さな面内磁場によって抑制されていることが明らかになった。こうした高い伝導度と異常な磁気抵抗は、強いラシュバSOCに対してもロバストなままの創発的スピン対称性によって後方散乱から保護される反転相内のヘリカルエッジ状態を予測する理論モデルと一致している。今回の結果は、強いトポロジカル絶縁体や、グラフェンヘテロ構造における強いスピン–軌道領域での相関量子相の近接操作への道を開くものである。

