幹細胞:長期的なex vivoでの造血幹細胞増殖は前処置なしでの移植を可能にする
Nature 571, 7763 doi: 10.1038/s41586-019-1244-x
多分化能を持ち、自己複製を行う造血幹細胞(HSC)の移植は、成体の血液系を再生させ、免疫不全や白血病をはじめとする多くの疾患に対して有効な根治的療法となる。in vivoの骨髄HSC微小環境、すなわちニッチの特性解析によって、HSCを維持する因子の特定に向けて大掛かりな取り組みが行われているが、これまでのところex vivoでのHSCの安定的な増殖は成功していない。今回我々は、機能的なマウスHSCの長期間にわたるex vivoでの増殖を可能にする、アルブミンを含まない明確に定義された合成培養系の開発について報告する。体系的な最適化手法により、高レベルのトロンボポエチンが低レベルの幹細胞因子およびフィブロネクチンと相乗的に作用し、HSCの自己複製を維持することが見いだされた。血清アルブミンは長らく、HSC培養に生物学的混入物が残存する主な原因と考えられてきたが、我々はGMP(good manufacturing practice)に適合するポリビニルアルコールが、血清アルブミンより機能的に優れた代替物質であることを突き止めた。これらの条件では、1か月以上にわたって、機能的なHSCを236倍から899倍の範囲で増殖させることができた。ただし、クローンに由来する培養の解析からは、ex vivoでのHSCの自己複製能にはかなりの不均一性が示唆された。この系を用いると、通常は必要とされる有害な前処置(例えば放射線照射)がなくても、わずか50個の細胞に由来する培養後のHSCがレシピエントマウスにロバストに生着し、これはヒトでのHSC移植にも関連すると思われる。従って、今回の知見は基礎的なHSC研究や臨床血液学の両方に重要な意味を持つ。

