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物性物理学:トポロジカル超伝導状態におけるクラインパラドックスに起因する完全アンドレーエフ反射

Nature 570, 7761 doi: 10.1038/s41586-019-1305-1

1928年にディラックは、電子に関して特殊相対性理論を取り入れた波動方程式を提唱した。その後間もなく、このディラック方程式を用いて単純なポテンシャルステップ問題を解いたクラインは、ポテンシャルバリアが電子のエネルギーより高いときにはバリアが消滅する、という見掛け上のパラドックスに直面した。質量のない粒子では、クライントンネリングが起こると後方散乱が完全に禁じられるため、粒子があらゆるポテンシャルバリアを必ず通過する完全透過が起こる。近年、グラフェンやトポロジカル絶縁体など、ディラック型の励起を有する凝縮物質系が発見され、クライントンネリングを実験的に直接観測する可能性が開けてきた。特に、トポロジカル絶縁体の表面状態では、フェルミオンはスピン–運動量ロッキングに束縛されるため、時間反転対称性によって禁じられた後方散乱ができなくなる。本論文では、ポイントコンタクト分光法を用いて完全アンドレーエフ反射を観測したことを報告する。これはクライントンネリングの明瞭な特徴であり、トポロジカル近藤絶縁体上に超伝導近接効果を誘起することによって、根底にある「特殊相対論的」な物理が現れたものである。今回の知見は、トポロジカル超伝導では今まで見られなかった側面であり、界面輸送現象がヘリカルトポロジカル状態に完全に支配されているユニークなスピントロニクスデバイスや超伝導デバイスの基礎として役立つと考えられる。

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