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材料科学:二硫化タングステンナノチューブにおいて増強されたp–n接合のない光起電力効果
Nature 570, 7761 doi: 10.1038/s41586-019-1303-3
正孔が過剰なp型物質と電子が過剰なn型物質が接合する従来のp–n接合における光起電力効果では、光照射によって生成された電子正孔対が分離して電流が生じる。この光起電力効果は、環境負荷の小さい発電技術に特に重要であり、その効率は劇的に向上して理論限界に近づきつつある。接合を必要とせず反転対称性の破れた結晶でのみ起こるバルク光起電力効果(BPVE)を利用することによって、さらなる発電効率の向上が期待されている。しかし、既存の物質では効率がいまだ低く、BPVEの実用化には至っていない。半導体の低次元化や狭バンドギャップ化によって、効率が向上すると示唆されてきた。バンドギャップの狭い二次元半導体の典型例である遷移金属ジカルコゲニド(TMD)では、バルク結晶に固有の反転対称性が破れることによってさまざまな効果が観測されているが、BPVEについては調べられていなかった。今回我々は、TMD群に属する二硫化タングステンを用いたデバイスにおいて、BPVEを発見したことを報告する。我々は、単なる反転対称性の破れではなく、二次元単層から極性を持つナノチューブ構造へと系統的に結晶対称性を制御していくことで、BPVEが大幅に増強されることを見いだした。こうして生じたナノチューブでの光電流密度の観測値は、他のBPVE物質よりも数桁高い。今回の成果は、TMD系ナノ物質の光電変換材料としての可能性だけでなく、より一般的には、ナノ物質の構造や結晶対称性の制御が太陽光から電力への変換効率を増強させる有効な手段であることを明らかにしたものである。

