構造生物学:市民科学者によるタンパク質のde novo設計
Nature 570, 7761 doi: 10.1038/s41586-019-1274-4
GalaxyZoo、Eyewire、Phyloといったオンライン市民科学プロジェクトは、データの収集や注釈付け、処理では大きな成功を収めることが実証されているが、ほとんどは人間のパターン認識技能を利用したものであって、創造力を用いたものではない。1つの例外はゲームのEteRNAで、プレイヤーはワトソン・クリック塩基対が形成されそうな別々の二次元空間を探すことにより、新しいRNA構造の構築を学習していく。しかし、新規なタンパク質の構築は、タンパク質構造の表し方と評価の両方が本来的に三次元で行われるため、これをゲームの形で提供するのはRNAよりも難しい。我々は、タンパク質のde novo設計という難問を、オンラインのタンパク質折りたたみゲーム「Foldit」で出題した。プレイヤーは、完全に引き伸ばされた形のペプチド鎖を与えられ、タンパク質の折りたたまれた構造とその構造をコードするアミノ酸配列を作成する。プレイヤーによる設計、高得点の解答の解析、それらによるゲームの改良を何回も繰り返した後、Folditのプレイヤーは現在、引き伸ばされたポリペプチド鎖から出発して多様なタンパク質構造とそれをコードするアミノ酸配列をin silicoで作れるようになっている。Folditプレイヤーが設計し、天然に存在するタンパク質とは全く無関係な配列を持つ146個のタンパク質は合成遺伝子にコードされていて、そのうちの56個は大腸菌(Escherichia coli)で発現され、可溶性であって、溶液中では単量体が安定な折りたたみ構造をとることが分かった。これらの構造の多様性はde novoタンパク質設計としては前例のないもので、天然のタンパク質では見られない新規な折りたたみ構造1つを含む20種類の折りたたみ方を示している。設計のうちの4つについて高分解能構造が決定され、これはプレイヤーによるモデルとほぼ一致した。この研究によって、de novoタンパク質設計の成功に役立つ重要な暗黙知が明らかになり、また、市民科学者がタンパク質の設計といった飛び抜けて難しい科学的課題に対して、創造性に富んだ新しい解を見いだす力を持つことが示された。

