構造生物学:単純ヘルペスウイルス1型の頂点ポータルとパッケージされたゲノムのクライオ電子顕微鏡構造
Nature 570, 7760 doi: 10.1038/s41586-019-1248-6
ヘルペスウイルスはエンベロープを持つウイルスで、ヒト集団に広く存在し、口唇ヘルペスや先天性欠損症、がんなどのさまざまな病態を引き起こす。このウイルスの特徴は高い加圧に耐えられる、三角形分割数(T)が16の擬二十面体カプシドで、これが密にパックされた二本鎖DNA(dsDNA)ゲノムを包み込んでいる。ヘルペスウイルスの生活環には、ATPを原動力とするターミナーゼをこのウイルスに特有の頂点ポータルへと誘導し、鎖状のdsDNAの認識、パッケージング、切断を行わせるという重要な過程が含まれていて、この過程によって最終的に、加圧に耐える、ゲノムを含むウイルス粒子が生じる。この過程はdsDNAファージ(ヘルペスウイルスとある程度の共通点がある)では調べられているが、ゲノムパッケージング装置のin situ高分解能構造が得られていないために、複数の要素の密接な協調が必要となるこの多段階反応が、要素が密に集積した環境中で起こる仕組みの解明を妨げてきた。単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)でのゲノムのパッケージングと組織化の構造基盤の解明をさらに進めるため、我々はHSV-1ウイルス粒子のクライオ(極低温)電子顕微鏡(クライオEM)画像を加工するためのsequential localized classification法とsymmetry relaxation法を開発した。これを使うことで、擬二十面体カプシド内のヘテロ対称な要素と非対称な要素を切り離し、再構築することが可能となった。本論文では、独特な頂点ポータル、ゲノム末端、カプシド中で無秩序化したdsDNAコア周辺に巻き付いている秩序立ったdsDNAコイルのin situ構造を示す。また、触手に似た複数のヘリックスと、頂点ポータルを覆っている球形の複合体(ファージには見られない)が明らかになった。これは、DNAパッケージング過程でのヘルペスウイルスに特異的な適応を示している。さらに、この頂点ポータルを構成する要素に関する原子モデルが作られ、十二量体のポータルがもたらす対称性の不適合を、擬5回対称のカプシドが許容する仕組みが明らかになった。これは二十面体ウイルスで長く謎とされてきた問題である。また、ゲノムのパッケージングに関わるDNA塩基配列認識と頭部の満杯を感知する働きをすると考えられる経路についても情報が得られた。この研究は、大型の真核生物ウイルスで対称性の不適合な要素を明らかにするための方法を示しており、ヘルペスウイルスのゲノムパッケージング機構を解明する手掛かりをもたらす。

