構造生物学:ヒトMT1メラトニン受容体でのリガンド認識の構造基盤
Nature 569, 7755 doi: 10.1038/s41586-019-1141-3
メラトニン(N-アセチル-5-メトキシトリプタミン)は神経ホルモンで、環境からの合図に同調することにより概日リズムを維持するように働き、また血圧や深部体温の調節、発がん、免疫機能などのさまざまな生理的過程に関与している。メラトニンは、松果体で光による調節を受けながら5-ヒドロキシトリプタミン(5-HT;別名セロトニン)から酵素変換反応によって形成され、1A型(MT1)、1B型(MT2)という2種類の高親和性Gタンパク質共役受容体を活性化することにより、睡眠と覚醒を調節する。現代社会では、シフト勤務や旅行、また至る所にある人工照明が自然な概日リズムを破壊することがあり、その結果、かなりの数の人々が睡眠障害に悩まされ、相当な負担を経済に負わせている。OTC薬としてのメラトニン(日本では未承認)は、時差ぼけ軽減に、またベンゾジアゼピンなどの睡眠補助薬のより安全な代替薬として広く使われており、米国で最もよく使われているサプリメントの1つとなっている。今回我々はMT1について、4種類のアゴニスト(不眠症治療薬ラメルテオン、2種類のメラトニン類似体、セロトニン受容体アンタゴニストでメラトニン受容体アゴニストとしても働く抗うつ剤のアゴメラチン)と複合体を形成した状態の、X線自由電子レーザー(XFEL)による室温での高分解能構造を報告する。MT2の構造については、同時掲載のもう1つの論文で述べられている。MT1受容体と5-HT受容体は内在性リガンドがよく似ていて、アゴメラチンも両方の受容体に作用するが、これら2つの受容体の構造とリガンド結合ポケットの構成は著しく異なっている。MT1では、リガンド結合ポケットへの接近経路は、細胞外ループ2によって溶媒が入らないようにしっかりとふさがれていて、膜貫通ヘリックスIVとVの間に狭い通路が残されているだけであり、これが脂質二重層へとつながっている。リガンド結合部位は極めて小さく、リガンドとMT1との相互作用は、主としてPhe179との強い芳香環スタッキングとAsn162およびGln181との補助的な水素結合によっている。この構造は、非脂質受容体に対する異例なリガンド進入路という予想外の例であり、メラトニン受容体によるリガンド認識の分子基盤を築くもので、今後の研究のためのツール化合物や治療薬の設計を促進するだろう。一方、この受容体と5-HT受容体との比較からは、Gタンパク質共役受容体の進化や多重薬理作用についての手掛かりが得られる。

