代謝:PKG1による修飾を受けたTSC2はmTORC1活性を調節して有害な心臓ストレスに対抗する
Nature 566, 7743 doi: 10.1038/s41586-019-0895-y
mTORC1(mechanistic target of rapamycin complex-1)は、増殖、代謝、タンパク質合成、およびオートファジーの調節を連携させる。その過剰活性化は、心臓をはじめとする多くの器官での疾患に関与するが、mTORC1の広範な抑制は、恒常性維持の役割に干渉する危険性がある。tuberin(TSC2)はGTPアーゼ活性化タンパク質の1つで、mTORC1の重要な内因性調節因子であり、RHEB(Ras homologue enriched in brain)の調節を介して作用する。TSC2は構成的にmTORC1を抑制するが、この活性は、複数のシグナル伝達キナーゼからのリン酸化により修飾され、それが次にmTORC1活性の抑制(AMPKやGSK-3β)や亢進(AKT、ERK、RSK-1)につながる。それぞれのキナーゼは複数のセリンの関与が必要であり、このことが、これらのin vivoでの役割の解析を妨げてきた。今回我々は、TSC2内の隣接した2つのセリン残基(マウスではS1365とS1366、ヒトではS1364とS1365)のどちらかにおけるリン酸化や機能獲得変異あるいは機能喪失変異によって、増殖因子や血流力学的ストレスにより誘発されるmTORC1活性を二方向に制御することができ、その結果、細胞増殖やオートファジーが調節されることを示す。ただし、mTORC1の基底状態の活性は変化しない。心臓、あるいは単離された心筋細胞や繊維芽細胞では、プロテインキナーゼG1(PKG1)がこれらのTSC2部位をリン酸化する。PKG1は一酸化窒素とナトリウム利尿ペプチドのシグナル伝達の主要なエフェクターであり、心疾患を防ぐ働きをしている。PKG1による心筋細胞での肥大の抑制やオートファジーの誘発には、TSC2のリン酸化が必要である。リン酸化抑制変異型TSC2(TSC2(S1365A))をホモ接合で発現するノックインマウスは、より重篤な心疾患を発症し、心臓の持続的な圧過負荷後の死亡率が高く、それはPKG1の刺激では救済できないmTORC1の過剰活性化のためである。しかし、同様のストレスに曝されたTsc2S1365Aヘテロ接合ノックインマウスでは、PKG1活性化により心疾患が軽減し、生存が改善した。また、同様のストレスに曝されたリン酸化模倣変異型TSC2(TSC2(S1365E))を発現するノックインマウスでは心機能の保護が見られた。休止状態のmTORC1活性は、どちらのノックインモデルでも変化しなかった。従って、TSC2のリン酸化は、圧過負荷に対するPKG1を介した心臓保護に必要かつ十分である。今回特定された2つのセリン残基は、ストレス刺激性のmTORC1活性の幅を二方向性に調節するための遺伝的ツールとなる。

