構造生物学:ATP結合状態および基質結合状態にあるヒトABCG2変異体のクライオ電子顕微鏡構造
Nature 563, 7731 doi: 10.1038/s41586-018-0680-3
ABCG2は、ABC(ATP-binding-cassette)ファミリーに属する輸送タンパク質で、血液脳関門や血液精巣関門、母体胎児間バリアなどのさまざまな組織、組織関門、組織バリア中の細胞の細胞膜で発現している。ABCG2はATPからのエネルギーを使って内因性基質を移動し、多くの薬剤の薬物動態に影響を与え、抗がん剤を含む広範囲にわたる生体異物に対して保護的に働いてる。以前の研究によって、ABCG2の構造や小分子や抗体による阻害の構造基盤が明らかになっている。しかし、基質認識とATP依存性の輸送の機構は不明なままである。本論文では、ヒトABCG2に基質が結合した輸送前状態と、ATPが結合した輸送後状態の高分解能クライオ(極低温)電子顕微鏡構造を示す。我々は、これらの構造の両方について、触媒活性を持つグルタミン酸をグルタミンで置換し、その結果としてATPアーゼ活性と輸送速度が低下して、構造研究のためのコンホメーション捕捉が容易になった変異体(ABCG2EQ)を用いた。基質結合状態では、1分子のエストロン3硫酸(E1S)が、中央にあって疎水性で細胞質側を向いているキャビティに膜を半分ほど横切った位置で結合している。ここで観察されたような結合様式では、E1Sはキャビティに1分子しか結合できない。ATPが結合した状態では、基質が結合していたキャビティはつぶれて小さくなっているが、外側のキャビティが膜の細胞外側へ向けて開口している。ATPによって誘起されるコンホメーション変化には、膜貫通ドメインの剛体への移行、ヌクレオチド結合ドメイン(NBD)の回転、NBDサブドメインの向きの相対的な変化が含まれる。輸送活性およびATPアーゼ活性についての変異誘発実験やin vitro特性解析から、2つのキャビティ間をふさぐ「栓」を形成するロイシン残基などの特定の残基が基質認識に担う役割が明らかになった。我々の結果は、ABCG2がATP結合のエネルギーを使ってE1Sなどの基質を搬出する仕組みを明らかにしており、化合物のサイズや結合親和性が阻害剤と基質の区別に重要であることが示唆された。

