生物物理学:動的アロステリーは酵素の低温適応の原動力となり得る
Nature 558, 7709 doi: 10.1038/s41586-018-0183-2
環境ニッチへの生物の適応は進化の特徴の1つである。その一例で広く見られるのが温度適応で、この適応では2種類の子孫が異なる極限温度で進化する。このような生物の間に見られる生理学的相違の基盤となっているのは、必須の反応を触媒する酵素に生じた変化であり、それぞれの生物のオルソログには適応変異が起こっていて、それぞれの生理的温度のもとで同じような触媒速度が維持される。しかし、このような適応的相違を引き起こすアミノ酸配列変化は、基質結合部位から遠くにある、表面に露出した部位に生じていて、酵素の活性部位には構造的な影響のない場合が多い。このような露出部位の変化が活性部位にアロステリックに伝播されて活性を調整する仕組みは、まだ解明されていない。今回我々は、大腸菌(Escherichia coli)のアデニル酸キナーゼの活性部位から遠く離れた部位にエントロピーを調整する変異を導入することに成功し、それによって酵素の親和性や代謝回転、適応促進の決定に酵素の動態が果たす役割を定量的に評価できたことを示す。その結果から、動態に基づいたアロステリックな調整機構が明らかになっただけでなく、酵素の重要なパラメーターの制御が空間的に分離されていることも分かった。1つの可動性ドメイン(LID)の揺らぎは基質親和性を制御し、もう1つのドメイン(AMP結合ドメイン)の動きの減衰が、酵素の代謝回転を支配する律速的なコンホメーション変化に影響する。従って、動態に基づく調節は、基本的な定常状態の構造を変化させることなく生物学的機能を微調整できる、精密かつ簡潔で広く使われているがこれまで認識されていなかった進化適応機構に当たる可能性がある。また、2つのドメインの剛体部分のコンホメーション変化は代謝回転の律速になると考えられるので、今回の適応研究によって、アデニル酸キナーゼの動態と代謝回転との関係性を解明するための新しいモデルが見つかったことになる。

