生物海洋学:珪藻では炭酸感受性のフィトトランスフェリンが鉄の高親和性取り込みを制御している
Nature 555, 7697 doi: 10.1038/nature25982
海洋の非常に広い領域で、植物プランクトンの増殖や生産力は鉄の欠乏によって制御されている。海洋環境中では、溶存鉄の大部分は有機分子と複合体を形成しているが、真光層では不安定な無機鉄種(不安定鉄)のピコモル量での存在が維持されており、これが真核生物の植物プランクトン、特に珪藻類にとって重要な鉄資源となっている。珪藻類の不安定鉄利用については、ゲノム情報を使うことで可能になった研究から、第二鉄イオン濃縮タンパク質ISIP2Aなどの新規な鉄応答性転写産物がこれまでに見つかっている。だが、ピコモルレベルの不安定鉄獲得の基盤となる機構はいまだに解明されていない。今回我々は、ISIP2Aは炭酸イオンと協調した第二鉄イオン結合を行うように独立して収斂進化してきたフィトトランスフェリンであることを明らかにする。珪藻のPhaeodactylum tricornutumでは、ISIP2Aが欠失すると高い親和性での鉄取り込みが起こらなくなり、ヒトのトランスフェリンを補ってやると取り込みが回復する。ISIP2Aはエンドサイトーシスによって珪藻内部に移行し、海水の炭酸系を変化させて調べたところ、これが不安定鉄と炭酸イオンに二次の濃度依存性を示すことが分かった。P. tricornutumでは、不安定鉄と炭酸イオンとの相乗的相互作用が環境中に相当する濃度で起こり、炭酸イオンの利用可能性も鉄取り込みを協働的に制限していることが明らかになった。フィトトランスフェリンのアミノ酸配列は分類学的に広く分布していて、海洋環境中のゲノムデータセット中に豊富に見られることから、海水の酸性化による炭酸イオン濃度の低下は、地球全体にとって重要な真核生物の鉄取り込み機構に負の影響を及ぼすと考えられる。

