物性物理学:運動エネルギーとの結合によって生じる反転対称性の破れによる最大のラシュバ型スピン分裂
Nature 549, 7673 doi: 10.1038/nature23898
固体における反転対称性の破れを操作し強化すること、つまり電子の「上向き」と「下向き」を区別できるようにすることは物性物理学と材料科学における重要な目標である。その理由は、基本的に興味深い研究対象であって実用的応用の可能性もある状態を、これを用いて安定化できるためである。例としては、メモリーデバイス用に改良された強誘電体や量子計算のためのマヨラナゼロモードを有する材料などがある。表面や界面などの結晶環境の一部では反転対称性は自然に破れているが、対象とする電子状態に対してこの効果の影響を最大にすることはまだ難しい。本論文では、遍歴表面電子に対する反転対称性の破れの、一般的に実現されているものよりもずっと大きな結合を実現する機構を示す。重要な要素は、表面ホッピングエネルギーの著しい非対称性、すなわち運動エネルギーと結合した反転対称性の破れであり、そのエネルギースケールはバンド幅のかなりの割合を占める。我々はスピン・角度分解光電子分光法を用いて、このような強い反転対称性の破れは、スピン–軌道相互作用と組み合わさると、一般的に予想されると思われるスピン分裂よりもはるかに大きなラシュバ型スピン分裂を媒介できることを実証する。我々が実現した反転対称性の破れのエネルギースケールは非常に大きいので、デラフォサイト酸化物のCoO2由来やRhO2由来の表面状態におけるスピン分裂を、3d遷移金属や4d遷移金属の完全な原子スピン–軌道相互作用よって制御できるようになり、既知のものの中で最大級のラシュバ型スピン分裂が得られた。バンド幅スケールの反転対称性の破れを促進する構造的な主要構成要素は、多くの材料に共通している。従って、今回の知見から、スピンテクスチャー状態を作り出す機会が得られ、酸化物などの材料種のデザイナーヘテロ構造における反転対称性の破れの界面制御への道筋が示唆される。

