神経科学:海馬長期増強と文脈学習にはAMPA受容体の表面拡散が必要である
Nature 549, 7672 doi: 10.1038/nature23658
興奮性シナプス伝達の長期増強(LTP)は、学習・記憶の細胞基盤であると長い間考えられてきた。初期LTP(1時間未満)は、以前はシナプス前部からのグルタミン酸放出の増加、あるいはシナプス後部でのAMPA(α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソオキサゾールプロピオン酸)受容体機能の直接修飾によると説明されていた。しかし最近になって、シナプス増強は、シナプス後部のAMPA受容体(AMPAR)の追加動員によって起こり得るとするモデルが有力になっている。AMPARの供給は、細胞内の貯蔵プールからのエキソサイトーシス、あるいはニューロン表面にすでに存在する近傍のシナプス外受容体の移動による、とされている。しかし、初期LTPの際に、シナプスがAMPARを素早く動員できる正確な機構は不明である。とりわけ、シナプス可塑性の交通機構としてのAMPAR表面拡散の中心的役割についての直接証拠はまだ得られていない。今回我々は、AMPARの不動化手法を用い、マウス海馬の培養切片、急性切片およびin vivoで、AMPARの表面拡散を阻害すると、シャファー側枝および交連繊維からCA1野への入力のシナプス増強が顕著に障害されることを示す。また、シナプス増強の時間的特性に対して、種々のAMPARの交通経路が別個に寄与していることも分かった。さらに、in vivoにおいて背側海馬でAMPARを不動化すると、恐怖条件付けが阻害されることから、文脈記憶の初期相にAMPARの拡散が重要なことも分かった。従って、これらの結果は、新規受容体の表面拡散によるシナプスへの動員がLTPの発現と海馬依存的学習の重要な機構であることを直接的に実証している。AMPARの表面拡散は、タンパク質間相互作用によって容易に影響を受ける微弱なブラウン運動の力によっているため、この基本的交通機構は、シナプス増強と学習を調節する上での重要な標的となるだろうと考えられる。

