Letter

化学:多金属窒化ウラン錯体による窒素の還元と官能基化

Nature 547, 7663 doi: 10.1038/nature23279

窒素分子(N2)は安価で広く入手可能であるが、その他の広く入手可能な基質[一酸化炭素(CO)など]を用いて温和な条件下でN2を官能基化し、付加価値化合物の合成を試みる際には、N2の反応性の乏しさが課題となる。生物学的な窒素固定や、ハーバー・ボッシュ法という工業的なアンモニア製造過程では共に、多金属触媒部位が関与すると考えられているにもかかわらず、生物学的な窒素固定では温和な条件下でのN2の官能基化が可能であるのに対し、ハーバー・ボッシュ法では過酷な条件下(450°C、300 bar)で反応が行われる。また、温和な条件下でN2と結合しN2の還元も可能な分子錯体が知られており、N2還元段階では金属中心間の協同作用が重要と考えられているが、関与する多金属種は明確でないことが多く、N2結合錯体をさらに変換してN–H結合やN–C結合を形成することはまれである。ハーバーは、工業的なハーバー・ボッシュ法に鉄系触媒が採用される前に、N2からのアンモニア製造にはウランや窒化ウランといった物質が非常に効果的な不均一系触媒になることを指摘した。しかし、N2と結合することが知られているウラン錯体の例はわずかであり、N2をアンモニアや有機窒素化合物に変換できる可溶性ウラン錯体はまだ確認されていない。今回我々は、窒化物基と柔軟な金属配位子骨格によって結び付けられた2個のUIIIイオンと3個のK+中心を持つ十分特性評価された錯体によって、周囲条件下でN2の4電子還元が起こることを報告する。得られたN24−錯体にH2付加、プロトン付加、H2とプロトンの付加、またはCO付加が起こることによって、N2の完全な開裂と同時にN–HまたはN–C結合形成反応を通したN2の官能基化が起こる。こうした観察結果は、ウラン錯体分子はN2からNH3やシアネートへの化学量論的変換を促進でき、窒化物で架橋された柔軟かつ電子豊富な多金属コアユニットが、温和な条件下でN2の開裂と官能基化を可能にする分子錯体の設計の有望な出発点となることを立証している。

目次へ戻る

プライバシーマーク制度