無機化学:水の酸化を目的として設計された五核鉄触媒
Nature 530, 7591 doi: 10.1038/nature16529
水の酸化は、光化学系II中の酸素発生錯体によって高い効率で触媒される。しかし、太陽光や電気による合成化学的燃料生産を目指す場合、水の酸化が主な障害の1つとなる。従って、水を酸化する高活性で安定な触媒の開発が非常に重要である。その際、実用により適しているのは不均一系触媒であるが、反応機構への理解に基づいて分子レベルで目標となる触媒の設計を行うには、均一系触媒の方が適していると考えられる。水の酸化機構に関する研究がさまざまな合成分子触媒の実現につながったものの、鉄(地殻中に最も多く存在する遷移金属で、天然や合成の酸化触媒中にも見られる)などの豊富かつ安価で環境に優しい金属を用いる系への関心は依然として高い。単核鉄錯体を利用した水の酸化触媒が研究されてきたが、こうした触媒はすぐに不活性化することが多く、活性も比較的低い。今回我々は、毎秒1900回という触媒回転頻度で効率よく水の酸化を触媒する安定な五核鉄錯体について報告する。この触媒回転頻度の値は、他の鉄錯体触媒の値より約3桁高い。電気化学的解析を行ったところ、この系がFeII5とFeIII5の間の6つの異なる酸化状態によって特徴付けられる電子柔軟性を持つことが確認された。水を酸化する際には、このFeIII5状態が活性種である。また、量子化学計算を行ったところ、隣接活性部位の存在がO–O結合形成を促進し、反応障壁が10 kcal/mol未満であることが示された。今回の系は、高い過電圧を必要とし、水含有量の多い溶液中では利用できないため、実用性が限られている。しかし、我々の研究結果は、系に電子柔軟性を持たせることと隣接水活性化部位を導入することによって、効率よく水を酸化する鉄錯体触媒が構築可能であることを明確に示すものである。

