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量子物理学:非共線的スピン構造を持つ反強磁性体における室温での巨大な異常ホール効果
Nature 527, 7577 doi: 10.1038/nature15723
強磁性伝導体では、印加磁場がゼロの場合に電流によって横方向の電圧降下が誘起されることがある。この異常ホール効果は、磁化に比例することが見いだされているため、反強磁性体においては印加磁場がゼロの場合には通常観測されない。最近の理論と実験の発展によって、ベリー位相の概念を用いて異常ホール効果を理解する枠組みが得られ、この観点から、正味のスピン磁化のないスピン液体や反強磁性体においても、特定条件下では巨大な異常ホール効果が現れる可能性が予測されていた。最近になって、スピン液体状態においてそうした自発的なホール効果が観測されているものの、反強磁性体ではゼロ磁場下での異常ホール効果はこれまで報告されていなかった。今回我々は、無視できるほどの小さい磁化を有する反強磁性体において、巨大な異常ホール効果が現れることを示す証拠を実験によって得たことを報告する。特に、120°構造という非共線的スピン秩序を持つ反強磁性体Mn3Snが、室温で約20 Ω−1 cm−1、低温で100 Ω−1 cm−1以上と、強磁性金属と同じオーダーに達する巨大な異常ホール伝導度を示すことが明らかになった。特筆すべきは、そのカイラル反強磁性状態がMn原子1個当たりボーア磁子の約0.002倍という、小さくかつソフトな強磁性モーメントを持つため、数百エルステッド程度という弱磁場でこのホール効果の符号を反転できることである。この大きな異常ホール効果のソフトな応答は、例えば擾乱をもたらす漏れ磁場がほとんど生じないメモリーデバイスの開発など、スピントロニクスをはじめとするさまざまな応用に役立つ可能性がある。

