遺伝学:遺伝的補償は有害変異によって誘導されるが、遺伝子ノックダウンでは誘導されない
Nature 524, 7564 doi: 10.1038/nature14580
細胞は環境を感知し、自身のトランスクリプトームを微調整することにより環境に適応する。この遺伝子発現制御ネットワークに備わっているのが遺伝子量を補償する機構である。ゼブラフィッシュや他のモデル系での逆遺伝学の使用が増え、遺伝的変異によって引き起こされる表現型と多くの遺伝子座での遺伝子ノックダウンによって引き起こされる表現型の間に顕著な差異があることが明らかになっており、このような観察はこれまでにマウスやシロイヌナズナ(Arabidopsis)でも報告されている。我々は変異とノックダウン間で表現型に差異が生じる原因を明らかにするために、ゼブラフィッシュのegfl7(内皮細胞の細胞外マトリックスで、治療標的候補である)の変異体、およびvegfaaの変異体も作製した。今回我々は、ゼブラフィッシュのegfl7変異体は明らかな表現型を示さないが、egfl7モルフォリーノを注入したゼブラフィッシュ(モルファント)は重度の血管障害を示すことを明らかにする。さらに、egfl7変異体はその野生型同胞よりもEgfl7ノックダウンに感受性を示さないことが分かった。これは、この変異体の残余タンパク質の機能、あるいは中程度のモルフォリーノ量が用いられた場合のモルフォリーノの顕著なオフターゲット効果に対する反証となる。egfl7の変異体とモルファントのプロテオームおよびトランスクリプトームを比較したところ、変異体では上方調節されるが、モルファントでは上方調節されない一連のタンパク質および遺伝子が明らかになった。それらの中に、egfl7モルファントを救済できる複数の細胞外マトリックス遺伝子があることから、これらは野生型の表現型を示すegfl7変異体でEgfl7機能の欠損を補償している可能性が示された。その上、転写伸長を抑制して重度の血管障害が引き起こすegfl7のCRISPR干渉では、これらの細胞外マトリックス遺伝子の上方調節は起こらなかった。同様に、vegfaa変異体ではvegfabが上方調節されていたが、vegfaaモルファントではされていなかった。総合すると、これらのデータから、有害な変異を緩衝する補償ネットワークの活性化が明らかになったが、このような活性化は翻訳あるいは転写の段階でのノックダウン後には観察されなかった。

