構造生物学:mRNAヘアピンへのTARBP2の結合を介した転移抑制因子転写産物の不安定化
Nature 513, 7517 doi: 10.1038/nature13466
RNA安定性の調節異常は、多くの病的状態で重要な役割を担っている。マイクロRNAがメッセンジャーRNA(mRNA)の一次元的な配列エレメントを標的として行うような転写後調節の解除は、多くの種類のがんのプログレッションに関連するとされている。RNAの特徴となる性質は、折りたたまれた構造をとり得ることである。しかし、がんのプログレッションにおける構造mRNAエレメントの役割は調べられていない。本研究では、同質遺伝子のヒト乳がんについて、転移性の高い細胞株と低い細胞株の全ゲノム転写産物の安定性測定により、乳がんでのmRNA安定性の転写後調節因子を偏りなく探索した。我々は、RNA塩基配列と構造空間を検索するコンピューターフレームワークを用いて、高GC構造のシス調節RNAエレメントの1ファミリーを見いだし、sRSE(structural RNA stability element;構造RNA安定性要素)と名付けた。sRSEは、転移性の高い細胞で安定性が低下している転写産物に、顕著に多く見られた。我々はコンピューターと生化学的手法を組み合わせ、マイクロRNAのプロセシングに関与すると考えられる二重鎖RNA結合タンパク質TARBP2が、sRSEファミリーや転写産物内の同様の構造エレメント[TARBP2結合構造エレメント(TBSE)と総称]に結合するトランス因子であることを明らかにした。TARBP2は転移性細胞や転移性のヒト肺がんで過剰発現しており、TBSEを含む転写産物を不安定化する。内在性のTARBP2は、アミロイド前駆タンパク質(APP)とZNF395転写産物を不安定化することにより、転移性の細胞浸潤とコロニー形成を促進する。この2つの遺伝子APPとZNF395は、それぞれアルツハイマー病とハンチントン病への関与が知られている。我々は、これらの遺伝子が乳がんにおける新規の転移抑制遺伝子であることを示す。APPの切断産物である細胞外アミロイドαペプチドは浸潤を直接的に抑制し、ZNF395は前転移性遺伝子発現プログラムを転写レベルで抑制する。ヒト乳がんでのTARBP2、APP、ZNF395の発現レベルは、実験的に明らかになった転移における役割を裏付けている。我々の結果は、哺乳類の遺伝子発現調節におけるTARBP2の非典型的で直接的な役割を立証し、調節されたRNA不安定化がmRNA構造エレメントのタンパク質を介した結合によりがんのプログレッションを制御できることを示すものである。

