低温物理学:気相エルビウム原子の極低温衝突における量子カオス
Nature 507, 7493 doi: 10.1038/nature13137
1 μK未満の温度まで冷却しても気相状態を維持する原子や分子の試料を使えば、構成粒子間の相互作用を調べたり操作したりする際にこれまでにないエネルギー分解能が得られる。この分解能の結果、磁場の精密制御を通してオンデマンドで原子を共鳴的に散乱させることができる。アルカリ金属などの単純な原子の場合、散乱共鳴の特性評価が極めてうまく行われている。しかし、現在極低温物理は、ランタニド磁性原子や分子さえも含む、はるかに複雑な種を冷却して調べることができる新しい領域の入り口に立っている。分子の場合、極低温衝突断面積における一連の高密度共鳴は、観測された核散乱のエネルギースペクトルと同じように、おそらく本質的にランダムなゆらぎを示すだろうと推測されてきた。Bohigas–Giannoni–Schmit予想によると、そのようなゆらぎは、衝突を駆動する根底にある古典運動のカオスダイナミクスの存在を示唆していると考えられる。これには、おそらく極低温物質の新しいカオス駆動状態のみならず、極低温原子系や分子系における基本相互作用を調べる新しい方法が必要だろう。今回我々は、極低温でランダムスペクトルが実際に見られることを実験的に実証したことを報告する。この実験では、エルビウム原子の極低温気体が、ボース粒子の場合1ガウス当たり3つ程度という多数のファノ–フェッシュバッハ(Fano–Feshbach)共鳴を示すことが明らかになっている。その統計解析から、最近接間隔分布がランダム行列理論から予測されるものであることが検証されている。これらの共鳴の密度と統計は、それらの起源が原子のポテンシャルエネルギー面の異方性にあるとする、完全に量子力学的な散乱計算によって説明される。従って、我々の結果は、極低温原子間の固有の相互作用におけるカオス的挙動を明らかにしている。

