神経生物学:orcoが変異した蚊は、ヒトに対する強い宿主選択性を失い、揮発性の昆虫忌避剤DEETの忌避効果を受けなくなる
Nature 498, 7455 doi: 10.1038/nature12206
蚊の中には、雌が宿主選択性を示さず、さまざまな脊椎動物を吸血対象とする種もあるが、非常に高い宿主選択性を示す種も存在する。ガンビエハマダラカ(Anopheles gambiae)やネッタイシマカ(Aedes aegypti)はヒトに対して強い選択性を持つように進化しており、マラリアやデング熱を高効率で伝播する危険な媒介動物となっている。宿主から発せられる特異的なにおいが、この強い選択性を生じさせると考えられる。というのも、それ以外の誘引刺激は、体温、呼気に含まれる二酸化炭素(CO2)を含め、温血動物宿主に共通しているからである。昆虫は、嗅覚受容体(OR)をはじめとする数種類の化学感覚受容体を介してにおいを感知する。膜タンパク質であるORは、におい物質作動性のヘテロマー・イオンチャネルであり、可変的でにおい物質に選択性のある1個のサブユニットと、Orcoと呼ばれる1個の必須の補助受容体で形成されている。今回我々は、ジンクフィンガーヌクレアーゼを使ってネッタイシマカのorco遺伝子に特異的な変異を導入し、Orcoと嗅覚受容体経路が蚊の宿主選択や昆虫忌避剤DEET(N,N-ジエチル-メタ-トルアミド)感受性にどのように関与するかを調べた。orco変異体の嗅神経は自発的活動が大幅に低下しており、におい物質に対する応答を示さなかった。また、行動に関しては、orco変異体は、花蜜に類似したにおい刺激である蜂蜜にほとんど誘引されなくなり、CO2が存在しない場合にはヒトのにおいにも誘引されなくなった。これに対し、CO2の存在下では、雌のorco変異体はヒトと動物宿主両方に強く誘引されたが、ヒトに対する強い宿主選択性は失われた。また、雌のorco変異体は、DEETが存在してもヒト宿主に誘引されたが、接触した後に忌避行動を示した。このことは、DEETの蚊に対する忌避効果は、嗅覚を介した作用と接触を介した作用という異なる機構により生じることを示している。これらの結果から、嗅覚受容体経路は、ヒトを宿主とする蚊がヒトとヒト以外の動物を識別するのに重要であり、また、揮発するDEETが蚊に対して忌避効果を発揮するのにも重要だと結論される。

