Letter 進化:オランウータンゲノムの比較分析および個体群動態分析 2011年1月27日 Nature 469, 7331 doi: 10.1038/nature09687 「オランウータン」の名は「森の人」を意味するマレー語に由来し、スマトラ島およびボルネオ島に生息する東南アジアのこの大型類人猿を的確に表現している。スマトラオランウータン(Pongo abelii;スマトラ島に生息)とボルネオオランウータン(Pongo pygmaeus;ボルネオ島に生息)の2つのオランウータン種は、系統発生的にヒトから最も遠い大型類人猿であり、ヒト科動物の進化の全体像に関して有用な情報をもたらす。今回我々は、スマトラオランウータンの概要ゲノム塩基配列の組み立てを行うとともに、スマトラおよびボルネオオランウータン各5個体のゲノムから短鎖リード配列データを得た。分析の結果、オランウータンゲノムには、ほかの霊長類が持たない固有の特徴が多数認められた。オランウータンゲノムの構造的進化は、ほかの大型類人猿と比較してずっと緩やかに進行したことが、再配列の少なさ、分節重複の少なさ、遺伝子ファミリーの新旧交代速度の低さ、および予想外に不活発なAlu反復配列(ほかの霊長類ゲノムの再構成で大きな役割を果たしている)によって示された。また、この両方のオランウータン種に、霊長類種をまたぐ多型として新生動原体が見つかった。これは、オランウータンのゲノム構造が段階的に進化したことを明示している。オランウータンのエネルギー所要量は、真獣類哺乳動物としては極端に少なく、ほかのヒト科動物と比較してもはるかに少ない。ゲノム塩基配列が解読された霊長類の仲間にオランウータンが加わることで、糖脂質代謝を含む複数の経路で正の選択が起こったことを示す新たな特徴が明らかになった。個体群の観点からすると、いずれのオランウータン種もきわめて多様であるが、スマトラオランウータンはボルネオオランウータンと比べて多様性が高く、種特異的な変異も多い。我々の推定では、ボルネオとスマトラの両オランウータン種の種分化は40万年前となるが、この年代は従来の多くの研究による推定と比較して新しく、オランウータンの種分化過程の複雑性を強調している。個体数調査では現在は個体群サイズが小さくなっているものの、スマトラオランウータンの有効個体群サイズ(Ne)は、分岐後の祖先のNeと比較して指数関数的に拡大しているが、ボルネオオランウータンのほうのNeは同じ期間に縮小している。総合すると、本論文で示した情報および分析結果は、進化ゲノミクスの新たな可能性、ヒト科生物学についての考察、および保護活動のための大規模な多様性データベースをもたらす。 Full Text PDF 目次へ戻る