βヘモグロビン異常症は、世界で最も罹患者の多い遺伝性疾患である。βサラセミアに対する遺伝子治療は、系譜特異的なやり方でヘモグロビンを大量に産生する必要があること、並びに正常化された造血幹細胞に選択優位性を示さないことから、特に困難なものとなっている。複合ヘテロ接合体βE/β0サラセミアは、重度サラセミアの中で、南東アジア諸国およびそこからの海外移住者において最も頻度の高い型である。βEグロビン対立遺伝子は、選択的スプライシングを引き起こす点突然変異を有する。異常スプライシング型はタンパク質をコードしないが、正常にスプライスされたメッセンジャーRNAは、部分的に不安定な変異βEグロビンを発現する。これが非機能性のβ0対立遺伝子と複合へテロ接合体を形成すると、βグロビンの合成が大きく低下するので、βE/β0サラセミア患者の約半数は輸血を必要とする。現在用いられている唯一の治療法は同種異系の造血幹細胞移植であるが、大半の患者では、ヒト白血球抗原が適合する遺伝的に一致するドナーが見つからず、たとえ適合した場合でも、拒絶反応または移植片対宿主病のリスクがある。今回我々は、幼児期以来毎月の輸血を必要としていた重度の成人βE/β0サラセミア患者が、レンチウイルスを用いたβグロビン遺伝子導入から33か月後の時点で、過去21か月にわたって輸血を必要としなかったことを示す。血中ヘモグロビン値は9〜10 g dl−1に維持され、その3分の1はベクターにコードされたβグロビンを含んでいる。治療効果のほとんどは、骨髄細胞に偏ったクローンが優勢となった結果によるものであり、組み込まれたベクターは、赤血球細胞でのHMGA2の転写を活性化し、let-7マイクロRNAによる分解に感受性のない切断型HMGA2 mRNAの発現がさらに増加する。治療効果に伴うクローン優位性は、偶然の結果である可能性もあるが、幹細胞や前駆細胞におけるHMGA2遺伝子の調節不全によって、それまで良性である細胞の増殖が引き起こされた結果である可能性もある。