Letter

脳:SIRT1とmiR-134を介した記憶と可塑性の新たな調節経路

Nature 466, 7310 doi: 10.1038/nature09271

NAD依存性デアセチラーゼであるSir2は、当初出芽酵母の複製寿命の仲介物質として同定されたが、その後線虫やハエの寿命調節因子でもあることがわかった。Sir2の哺乳類ホモログであるSIRT1は、心臓機能やDNA修復、ゲノム安定性にかかわる複雑な全身的な役割を進化させてきたように思われる。最近の研究では、SIRT1が脳の正常な生理機能や神経学的障害にも機能的に関係することが示唆されている。しかし、脳の高次機能に役割をもつかどうかはわかっていない。本論文では、SIRT1がマイクロRNAを介した機構でシナプス可塑性や記憶形成を調節することを報告する。シナプス可塑性は、SIRT1の活性化により促進され、機能喪失により阻害される。意外にもこれらの影響は、CREB(cAMP response binding)タンパク質の発現を、脳特異的マイクロRNAであるmiR-134を介して転写後調節することによっていた。通常SIRT1は、転写因子YY1を含むリプレッサー複合体を介してmiR-134の発現を制限しているが、SIRT1欠失によってmiR-134発現が抑制されなくなると、CREBタンパク質とBDNF(brain-derived neurotrophic factor)の発現が下方制御され、シナプス可塑性に障害が起こる。この知見は、SIRT1が認知過程にかかわる新たな役割をもつことと、従来知られていなかったマイクロRNA依存的機構によってSIRT1がこれらの過程を調節することを示している。さらに、今回の結果から、SIRT1シグナル伝達に別の枝があることがわかる。すなわちSIRT1には、細胞生存機能とは全く異なる様式で正常な脳機能を調節する直接的な役割があり、中枢神経系障害治療の標的となりうると考えられる。

目次へ戻る

プライバシーマーク制度