分子の時間スケール(フェムト秒)での化学反応の研究では、ポンプレーザーパルスを用いて分子を励起した後、プローブパルスでそれらの分子を調べることが多い。超短ポンプパルスは、ほんのわずかな分子しか励起できず、励起分子と非励起分子を区別するためにプローブ波長を慎重に選ばなければならない。また、過去10年間で、X線回折、電子線回折、レーザー誘起再衝突に基づき、進行中の化学反応を画像化することを目的とした新しい方法も登場したが、これらの新方法のいずれもスペクトル選択ができない。今回我々は、再衝突を使う高次高調波分光法の場合、この一見すると欠点にみえるものが、アト秒高次高調波パルス発生のコヒーレント性により大きな利点になることを示す。コヒーレンスによって、非励起分子が局部発振器の役割を果たし、これに対するダイナミクスが観測される。このため、過渡回折格子法を使って、励起分子からの発光の振幅と位相を再現できる。このとき我々は、短時間の量子干渉とより長時間の再衝突電子の散乱によって、核間距離をコードしている振幅から構造情報を抽出している。位相は、電子のアト秒動態を記録しているため、時間発展するイオン化ポテンシャルと過渡的に生じる分子の電子構造が調べられる。この実験では、弱く振動励起された電子基底状態のBr2の伸張形状と収縮形状の間でアト秒(1 as = 10−18 s)未満の高次高調波場の時間的変化が記録できる。高次高調波分光法は、高い時間分解能をもつうえに構造的特徴や電子的特徴の精査が可能なので、光化学反応で起こる電子と核の結合ダイナミクスの測定や、遷移状態の電子構造の特性評価に最も適したものといえる。