Letter 細胞:PtdIns(3,4)P2ホスファターゼINPP4Aは、興奮毒性によるニューロン死の抑制因子である 2010年5月27日 Nature 465, 7297 doi: 10.1038/nature09023 ホスファチジルイノシトールがリン酸化された派生体は、ホスホイノシチドと総称され、細胞膜脂質二重層の細胞質側の層にあって小胞輸送や細胞骨格の再構築、シグナル伝達等の過程を調節している。最近の研究では、がんや糖尿病、筋障害、炎症といった病気の原因に、ホスホイノシチド代謝が重要な役割を果たしていることが示されている。ホスファチジルイノシトール-3,4,5-三リン酸(PtdIns(3,4,5)P3)を調節するホスファターゼの生物学的機能は詳しく解明されているが、これと非常によく似た分子であるホスファチジルイノシトール-3,4-二リン酸(PtdIns(3,4)P2)を調節するホスファターゼの機能については、ほとんど解明されていない。今回我々は、PtdIns(3,4)P2の脱リン酸を行う酵素であるイノシトールポリリン酸ホスファターゼ4A(INPP4A)が、中枢神経系でグルタミン酸の興奮毒性の抑制因子として働くことを明らかにした。マウスでInpp4a遺伝子を選択的に破壊すると、大脳基底核の入力の中心で運動と認知行動に中心的な役割を担う線条体の神経変性につながる。とりわけ、Inpp4a−/−マウスでは、重度の不随意運動がみられる。in vitroで、短鎖ヘアピンRNAにより培養ニューロンのInpp4a遺伝子を抑制すると、N-メチル-Dアスパラギン酸型グルタミン酸受容体(NMDAR)を介した細胞死が起こりやすくなる。機構的には、INPP4Aはシナプス後肥厚部に存在し、NMDARのシナプス局在とNMDARを介した興奮性シナプス後電流を調節している。したがって、INPP4Aはニューロンを興奮毒性による細胞死から保護し、脳機能の完全性を維持する働きをする。今回の知見により、PtdIns(3,4)P2やPtdIns(3,4,5)P3とそれらに作用するホスファターゼがそれぞれ異なった生体調節機能を担うことが明らかになり、PtdIns(3,4)P2代謝の独特な性質と生理的な重要性に関する手がかりが得られる。INPP4Aは、ニューロンで興奮毒性による細胞死を防ぐ機能をもつ、我々の知るかぎりでは初めてのシグナル伝達タンパク質である。PtdIns(3,4)P2代謝と神経変性や不随意運動の調節との間の直接的な関係がわかったことは、神経変性疾患の新しい治療法の開発に役立つ可能性がある。 Full Text PDF 目次へ戻る