Article 生理:阻害性匂い物質によるショウジョウバエのCO2忌避行動の変化 2009年9月10日 Nature 461, 7261 doi: 10.1038/nature08295 キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)は、ストレスを受けたハエが放出する匂いの成分であるCO2に対し、嗅覚に基づく生得的な強い忌避行動をとる。触角の特殊なニューロンと高次嗅覚系に備わる専門の神経回路が、CO2の検出と忌避にかかわっている。しかし、ショウジョウバエにとって非常に重要な餌である熟した果実や発酵酵母といった、CO2が含まれる一部の環境中では、ショウジョウバエはこのような忌避反応を克服する必要がある。生得的嗅覚忌避行動の環境に応じたこのような独自の調整について、分子レベル、ニューロンレベルでの基盤はほとんど解明されていない。今回我々は、食物中に存在する新規な種類の匂い物質で、触角のCO2感受性ニューロンを直接的に阻害するものを同定した。in vivo発現系を用いて、この匂い物質がGr21a/Gr63a CO2受容体に作用することが確認された。これらの匂い物質が存在すると、CO2のかかわる忌避行動だけでなく、「ショウジョウバエの発するストレス臭」がかかわる忌避行動も特異的に著しく軽減される。我々は、この新規な匂い物質によるCO2受容体に対する阻害性相互作用が、CO2に対する忌避行動に直接影響するというモデルを考えた。また、阻害の時間的変化に違いがあることも観察された。この匂い物質の1つは、効果が最初の曝露後数分間継続した。この匂い物質に前もって短時間曝露したハエは、匂い物質が存在しなくなった後でもCO2忌避刺激に反応しない。また、西ナイル熱やフィラリア症を媒介するイエカ属のカでも、近縁の匂い物質がCO2に対する応答を効果的に阻害することを示す。これらの知見は、嗅覚のコード化に阻害性匂い物質が果たす重要な役割を明らかにし、病気を媒介する蚊などの昆虫のCO2を介した宿主探索行動阻害の可能性に広くかかわっている。 Full Text PDF 目次へ戻る