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細胞:遺伝的に組み込まれた光活性化可能なRacによって生きた細胞の運動性を制御する

Nature 461, 7260 doi: 10.1038/nature08241

細胞の挙動の決定には、タンパク質活性の時空間的に正確な動的変化が極めて重要な場合が多いが、大半のタンパク質では、こうした動態の解明がほとんどなされていない。生きた細胞内で時期と場所を決めて的確にタンパク質の活性を操作することは、いまだに困難である。タンパク質活性の光による制御は、光照射により切断可能な成分のタンパク質への導入や光反応性の小分子リガンドを用いて行われてきた。しかしこれには有害な紫外線照射が必要で、活性化は不可逆であり、また細胞への導入に細胞膜の破壊(例えばマイクロインジェクション法など)が必要な場合もある。今回我々は、後生動物細胞のアクチン細胞骨格の動的変化を調節する重要なGTPアーゼであるRac1の光活性化可能な誘導体を、遺伝的に組み込ませるという新しい方法を開発した。Rac1変異体はフォトトロピンの光反応性をもつLOV(light oxygen voltage)ドメインと融合させてあり、光照射によってLOVとRac1とをつなぐヘリックスがほどけるまで、Rac1による相互作用がLOVによって立体的に阻害される。この光反応性Rac1(PA-Rac1)は、458 nmあるいは473 nmの光によって可逆的に繰り返し活性化でき、細胞内の正確に決めた位置で突起形成とラフリングが誘導できた。局所的なRac活性化、あるいは不活性化だけで細胞運動を引き起こすことが可能で、細胞の移動方向が制御できた。ミオシンは、Racによる方向性制御にはかかわっていたが、Racが誘導する突起形成にはかかわっていなかった。一方、PAKはRacの誘導する突起形成に必要だった。PA-Rac1を用いて、細胞運動におけるRhoAのRacによる調節について解明した。RacとRhoは数秒以内に、マイクロメートル以下の精度で細胞骨格の挙動を協調させる。RacとRhoの相互調節に関しては、RacがRhoを阻害する、あるいは活性化することを示すデータがあって、議論が分かれたままである。Racは、マウスの胚性繊維芽細胞でRhoAを阻害するが、突起形成とラフリングでは阻害に違いがあることが明らかになった。PA-Racの結晶構造とモデル作製によって、LOVとRacの相互作用のようすが明らかになり、これは我々の光活性化法をほかのタンパク質に応用するのに役立つだろう。

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