Letter 細胞:哺乳類前駆細胞での全トランスクリプトームノイズによる細胞系譜の制御 2008年5月22日 Nature 453, 7194 doi: 10.1038/nature06965 クローン集団内の細胞による表現型の変動は、「遺伝子発現ノイズ」の表出、あるいは安定な表現型変種を現している可能性がある。このような「非遺伝的な細胞の個性」は哺乳類細胞のタンパク質レベルのゆっくりとしたゆらぎに起因することがある。このようなゆらぎは細胞の持続的な個性を産み出し、これによってクローン集団の不均一性がもたらされる。しかし、このような不均一性が幹細胞の細胞運命決定の確率性を説明するかどうかはわかっていない。今回我々は、マウスの造血前駆細胞のクローン集団で、幹細胞マーカーのSca-1(別名Ly6a)の発現レベルが極端に高い、あるいは低い自然発生的な「外れ値(outlier)」細胞は、母集団のSca-1の分布を再構築するが、それには1週間以上かかることを示す。元の状態へのこのゆっくりとした緩和は、異なった亜集団間のノイズにより誘導される移行を組み入れたガウシアン混合モデルで記述でき、1つの細胞種類内に隠れた複数の安定状態があることが示唆される。同じクローン由来であるにもかかわらず、Sca-1外れ値細胞は全く異なったトランスクリプトームをもつ。このような独特の遺伝子発現プロファイルは最終的には中央値に近い細胞のプロファイルへと戻り、アトラクター状態があることを示しているが、独特な遺伝子発現プロファイルは十分長く続き、赤血球系あるいは骨髄系細胞の系譜のどちらかを選択するための大きく異なった性質を付与する。どちらの系譜を選択しやすいかは系譜特異的な転写因子の発現増加と関連しており、赤血球系になりやすい細胞ではGata1の発現が200倍以上増加しており、骨髄細胞になりやすい細胞ではPU.1(Sfpi1)の発現が15倍以上増加している。したがって、遺伝子発現レベルのクローンでの不均一性は個々の遺伝子の発現における独立したノイズによるものではなく、個々の細胞によって異なるトランスクリプトームのゆっくりしたゆらぎの準安定状態を反映しており、多能性前駆細胞の細胞運命決定において可逆的で確率的なプライミングを支配しているかもしれない。 Full Text PDF 目次へ戻る