Letter

生化学:サイポウイルス多角体の分子構築

Nature 446, 7131 doi: 10.1038/nature05628

サイポウイルス(細胞質多角体病ウイルス)およびバキュロウイルス(核多角体病ウイルス)のウイルス粒子は、多角体とよばれるマイクロメートル単位の大きさのタンパク質結晶に埋め込まれているために、根絶しにくいことで悪名高い。多角体の安定性は著しく、これらの昆虫ウイルスは細菌の芽胞のように土壌中で数年にわたって感染性を保持し続ける。多角体が環境中に残留するとカイコの繭の収穫量が著しく減少するが、多角体は化学的殺虫剤の生物学的代替物として害虫に対して利用されてもいる。1900年代初頭から多角体の構造解析が多数試みられてきたが、多角体の原子構造は解明されていなかった。今回我々は、カイコ細胞から精製した、カイコ・サイポウイルス遺伝子組み換え多角体と感染性をもつ多角体の両方について、直径が5〜12マイクロメートルの結晶を用いて2Åの分解能で結晶構造を決定した。これらの結晶は、タンパク質のde novo X線結晶構造解析に用いられた結晶としては最小である。多角体は、ウイルスの多角体タンパク質(polyhedrin)が作る3量体が構成単位であり、さらにヌクレオチドが含まれることがわかった。この構成単位の形はキャプシドタンパク質の3量体に似ていたが、polyhedrinの折りたたみ方は新規なもので、in vivoでは会合して、二十面体の殻ではなく3次元立方体状の結晶を形成するように進化していた。多角体中では、polyhedrin3量体は非共有結合性の相互作用によって広範に架橋されており、抗原・抗体複合体でみられる分子の相補性に似た仕組みで巧妙にパッキングされている。こうして形成される非常に安定性の高い密閉型の結晶によって、ウイルス粒子は環境から受けるダメージから保護されている。今回得られた構造から、多角体はマイクロアレイや生物農薬などのバイオテクノロジー的応用に向けた頑丈で用途の広いナノ粒子開発の基盤となりうることが示唆された。

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