胸腺での成熟によってT細胞には、補助受容体CD4またはCD8のどちらか一方を発現する2種類の系統が生じ、それぞれ抗体産生を助ける作用、細胞傷害作用をもつようになる。しかし、この補助受容体が互いに排他的に発現されるしくみは、まだほとんど解明されていない。BAF複合体は哺乳類のSWI/SNF様クロマチンリモデリング因子だが、そのDNA結合サブユニットであるBAF57のHMGドメインか、ATPアーゼサブユニットであるBrgに変異が生じると、CD4のサイレンシングとCD8の活性化が両方とも妨げられることがわかった。BrgはCD8活性化に関してハプロインサフィシエントだがCD4のサイレンシングに関してはそうでないのに対し、BAF57の変異はCD4のサイレンシングの方を選んで阻害することから、クロマチンリモデリングの標的特異的、サブユニット特異的機構の存在が示唆される。BAF複合体はCD4サイレンサーに直接結合するが、BAF57のHMGドメインがなくても、in vivo でBAF複合体をクロマチンのCD4サイレンサーやその他の部位に結合させ、あるいはin vitroで再構成した鋳型をリモデリングできる。このことから、in vivoでのクロマチンリモデリングには、HMGの働きに依存したDNAの折り曲げが必要なことが示唆される。これらの結果が示すように、BAF複合体は、系統特異的な遺伝子を相互に調節することによってT細胞の2系統の分岐に重要な役割を果たしている。これは、酵母の接合型の切り換えにおいてSWI/SNF複合体が担う役割によく似ている。