Letter 聴覚:キメラ音によって明らかになる聴覚知覚の二成分性 2002年3月7日 Nature 416, 6876 doi: 10.1038/416087a フーリエの定理によれば、すべての信号は異なる振動数の正弦波の和に分解できる。これは聴覚においてとくに重要な原理で、内耳は蝸牛隔膜の長軸に沿って異なる振動数成分を割り付ける一種の機械的フーリエ変換を実行している。しかし、信号の成分分解には別の方法もありえ、ヒルベルトの創始した方法では、信号をゆっくりと変動する包絡線と速く変動する微細時間構造との積に分解する。脳幹の聴覚系ニューロンに、このような成分に応答するものがあることが、哺乳類の生理学的実験から分かっている。包絡線と微細時間構造が知覚上相対的にどのような意義をもつのかを調べる目的で、一つの音を包絡線にもち別の音を微細時間構造にもつ刺激を合成した。我々は、この刺激を「聴覚キメラ」と命名した。その結果、発話の知覚には包絡線成分が最も重要で、音の高低や音源位置の知覚には微細時間構造成分が最も重要であることが分かった。二つの成分が相互に矛盾するように仕組むと、発話が音としては微細時間構造で決められる位置に聞こえるが、意味は包絡線が決めるものに受け取られる。この知見は、皮質聴覚野で音の内容と位置が別の経路で処理されるという仮説に対する音響学的な根拠となる可能性がある。 Full Text PDF 目次へ戻る