Editorial Board Highlights

化学の将来に貢献し、論文誌と論文をもっと魅力的に

本多 智 / 東京大学

Contributing to the future of chemistry and making the journal and papers more attractive

現在取り組まれている研究、編集委員になられた経緯、本誌の魅力、日本の研究者へのメッセージをお届けします。

―― 現在どのような研究をされていらっしゃいますか?

本多氏: 特殊な形状(トポロジー)の高分子合成、機能性ナノ構造の構築、および刺激応答性材料の開発をテーマに研究に取り組んでいます。また、わたしたちが開発した材料を環境・エネルギー、ライフサイエンス、およびエレクトロニクス分野に応用し、社会的・産業的な課題を解決することを目指しています。研究の一部では、生体分子とその集合体を独特なかたちの有機・高分子ソフトマテリアルで模倣することで、生物の高度な機能を人工物質で再現することにも挑戦しています。

―― これまでの研究キャリアで最大の挑戦と、最大の成果は何ですか?

本多氏: 私は、研究テーマを構想するときに、様々な制約を課します。例えば、環境に配慮するために使用時に溶媒を必要としない材料とすること、高価な専用装置を必要とせず誰でも容易に入手可能な安価な民生品の利用可能性を追求することなどです。研究に多くの制約を課し、その全ての解決を同時に狙うほど難易度の高い挑戦となります。私自身の思い出深い挑戦と成果としては、Nat. Commun., 8, 502 (2017)の論文です。ちなみに、ある一つの挑戦が達成されると、次々に別の挑戦が現れます。次の挑戦を考えるときには、既に達成された挑戦を「まあ、これなら達成できるよね」と思えるようになっているので、私の場合には最大の挑戦はいつも現在進行形で取り組んでいる研究内容だと思います。

―― Communications Chemistry の編集委員になられたきっかけは何ですか?

本多氏: 研究者としての仕事に従事すると、自分たちの研究成果の論文発表だけでなく、他の研究者の論文の査読者になる機会も多くなります。どちらが欠けても学術に対する貢献の責任の一つを放棄していることになると思いますが、もう一つ忘れてはならない存在が編集委員です。学術論文が出版されるまでの狭い意味でのキープレーヤーは、著者、査読者、そして編集委員でしょう。そして編集委員には、より俯瞰的な立場から研究分野の将来的発展を見据え、論文誌をより魅力的なものにすることで研究分野全体の発展にも寄与する責任があると理解しています。すなわち、論文著者や査読者とは異なった側面で科学研究に貢献でき、かつ大きな責任が伴う立場です。こうしたなか、化学の全分野をカバーするCommunications Chemistry 誌の編集委員に参画することは、化学の発展に貢献できる得難い機会だと感じました。直接的なきっかけはチーフエディターから直々に編集委員のオファーを頂いたことですが、一番のきっかけは上記のようなモチベーションがあったことです。したがって、オファーを頂いた次の瞬間にはすぐにお受けすることにしました。

―― Communications Chemistry の編集委員になられて感じられた新たな発見、またEBMを務められて一番喜びを感じる点は何ですか?

本多氏: 編集委員になると、論文の著者や査読者の立場では見ることのできない景色を目の当たりにすることになります。こうした経験は、自分自身の研究にとっても大きなプラスとして働くと確信しています。私は2021年1月から編集委員に加わったのでまだ新米です。しかし、今後、経験を積み重ねる中で吸収できることが多いと感じており、大変楽しみにしています。

―― Communications Chemistry に投稿する、または記事を読むことの利点は何だと思いますか?

本多氏: 論文誌には、専任の編集委員がおらず、大学や研究所の教員による兼任の編集委員のみで運用されているものも多いと思います。それに対してCommunications Chemistry では、専任の編集委員・編集長と私のような兼任の編集委員との間で綿密にやりとりして、意思決定がなされていきます。このことによって意思決定の公平性が担保されているだけでなく、論文そのものの質のブレも少なくなっていると思います。著者として論文を投稿する観点でも、また掲載されている論文を読む観点でも、公平性が担保され質が高い論文が掲載されていることはCommunications Chemistry の大きな利点だと私は考えています。

―― 化学分野の日本の研究者へのメッセージをお願いします。

本多氏: Communications Chemistry への貢献度を国別でみると、なんと日本は世界2位です(2021年6月調べ)。日本の研究者によって支えられていると言っても過言ではないCommunications Chemistry をさらに価値の高いジャーナルにすべく、私自身も最大限の努力をしていきます。また、折角の機会ですので独自の試みにも挑戦していきたいと考えています。この記事をお読みの皆様の御研究において、「素晴らしい成果が出た!」と喜びの声が上がったときには、是非、Communications Chemistry への御投稿をお考え下さい。積極的な御投稿を心よりお待ち申し上げております。

Profile

本多 智(ほんだ・さとし)

東京大学大学院総合文化研究科 助教(2015年~)
東京大学卓越研究員(2018年~)

経歴:
東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程修了(2013年)
東京理科大学工学部工業化学科 嘱託助教(2013-2015年)
スタンフォード大学化学科 訪問研究員(2018-2019年)

モットー:
楽しいと思ったことにとことん没頭する。

本多 智

ネイチャー・ポートフォリオの出版誌 掲載論文

ArticlePhoto-triggered solvent-free metamorphosis of polymeric materials

Nature Communications 8 Article number: 502 (2017) | Published on 11 September 2017

ArticleTuneable enhancement of the salt and thermal stability of polymeric micelles by cyclized amphiphiles

Nature Communications 4 Article number: 1574 (2013) | Published on 12 March 2013

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